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2011.08.22

【特集】世界選手権へかける(6)…男子フリースタイル74kg級・高橋龍太(自衛隊)

(文=保高幸子)

 今年の世界選手権、男子フリースタイルで唯一初出場となった74kg級の高橋龍太(自衛隊=右写真)は、全日本の2大大会(全日本選抜選手権、全日本選手権)で優勝したのも今回が初めてという遅咲き選手。自衛隊入隊8年目にして、やっとつかんだ世界選手権代表。29歳8ヶ月での世界大会初出場は日本史上5番目の記録で、今年のフリースタイル・チームで最年長。五輪出場枠がかかった大事な世界選手権に臨む。

 ずっと頂点に立てなかった。「つらいというよりは、ありがたかったというか…。レスリングやりたくてもできない人もいますし、自分は体育学校に残ってやらせてもらっているから、つらいなんて言っていられませんでした」。

 入隊した最初の数年は何も考えていなかった。しかし「どんどん期待してもらっているんだなと分かってきて、『結果で応えなければ!』っていうのが大きかったですね」。高橋を奮い立たせてきたものはその感謝の気持ちであり、期待に応えたいという気持ちだった。

■万年2位、3位が続いた全日本レベルの大会

 自衛隊の8年間だけではなく、高校時代からビッグタイトルとは縁がなかった。高橋には大きな壁があった。昨年11月のアジア大会(中国)で銅メダルを獲得した長島和幸(クリナップ)とは同学年で、初めて出会ったのが高校2年生の冬の合宿。スパーリングで当たり、「同学年にこんなに強いヤツがいるのか! と思いました」と、苦手意識が生まれてしまった。

 その年度末に行われた全国高校選抜大会の決勝で対戦したが、「苦手意識で負けました…」と、遠く苦い思い出を語る。その苦手意識は、その時から12年間も持ち続けていた。(左写真:2003年東日本リーグ戦での高橋=右。リーグ戦無敗など学生間では活躍したが…)

 昨年の全日本選抜選手権では、決勝で長島にテクニカルフォールされて準優勝。全日本選手権では準決勝で鈴木崇之(警視庁)に敗れ3位だった。五輪に向けて年齢的に最後のチャンスとも言える今年5月の全日本選抜選手権。高橋はここで負けたら全てが終わる、と自分を奮い立たせていた。

■「次がある」と思うから、「負けたらどうしよう」と思ってしまう

 しかし、体調は万全ではなかった。1週間前に調子が落ち、不安があったのだという。相談したのは自衛隊体育学校のトレーニング場に勤める木下英規氏。グレコローマン85kg級で神奈川国体優勝を最後に引退した自衛隊の大先輩。首のケガで半身不随になったが、リハビリを経て今春勤務に復帰し、自衛隊の選手たちに慕われている。

 「いつもいろんな話を聞かせてもらっています。調子が落ちた時に練習を見に来られていたので、『調子悪いんですよ』とこぼしたら、『1週間前にいろいろ考えてもしょうがない。やったことしか出ないんだから、今さらやっても変わらない。開き直って行けよ!』と言われて。思い切って行けました」と言う。

 迎えた運命の全日本選抜選手権。準決勝で長年のライバルである長島を撃破。決勝では鈴木にフォール勝ちし、見事な初優勝だった。そして日本代表権のかかった長島とのプレーオフでは、得意のタックルからの見事なフォールで仕留めた(右写真)。ライバル達を退け、万年2位、3位の汚名を返上したのだ。今までとは別人のようなアグレッシブなレスリングを見せた高橋。しかし、別人だったわけではない。

 「練習では強いが試合になると違う、と言われていた。自分でも気持ちの問題だと思っていました」と言うように、実力を出せていなかっただけだった。今までは、まだまだレスリングを続けられる、という甘えがあった。「次があるからこそ、『負けたらどうしよう』と思っていたんです。得意のタックルに1度も入らないで負けたこともありました。今回は気持ちが違いました。次がなければ、『負けたらどうしよう』も何もない」という気持ちが快進撃を見せた。

■12年間消えてくれなかった苦手意識を克服して生まれ変わった

 世界対策としてはタックルの切りを強化してきた。いろんなコーチに前から言われ続けていた修正点だが、日本代表になるまでは本腰を入れられなかったのも事実。冬の国際大会への出場経験はあるが、公式な国際大会は今年5月のアジア選手権が初めてであり、海外対策は少し遅れたかもしれない。

 しかし、「前よりは良くなっています。あとは攻撃力。得意のタックルを磨いてどろ臭くても何でもやります。勝てばいいです、結果がすべてです」と闘志を燃やす。特筆すべきは長島選手への苦手意識はなくなり、12年の長い歴史を塗り替えたこと。今まで高橋を2位以下にとどまらせてしまったのは、「大事なところで出てしまう弱気」だったが、12年持ち続けた苦手意識をも克服した今、世界選手権だろうと怖いものではない。(左写真=全日本合宿で練習する高橋)

 世界の74kg級は層が厚い。「実際、難しいとは思う」ともらすが、すぐに「諦めることだけはしないでやります。5位以内に入ります」と続くところが“新生高橋龍太”。全日本選抜選手権でもそうだったが、今までうれしくて泣いたことはないという。では、輝かしい世界の舞台の上で、今まで味わった事のない喜びに、ほころぶ大きな笑顔を見せてくれることを期待しよう。


 高橋龍太(たかはし・りゅうた=自衛隊)
  1982年1月13日、長野県生まれ、29歳。長野・上田西高~拓大卒。高校時代は全国大会無冠。拓大に進み、02年にJOC杯ジュニアオリンピックで優勝し、アジア・ジュニア選手権3位。翌03年には全日本大学選手権で優勝した。卒業後の04年全日本選手権で2位となったが、全日本選手権は2位、3位が多く、なかなか王者には手が届かなかった。07年国体優勝、09年全日本社会人選手権で優勝を経て、今回、29歳で初の世界選手権代表へ。


 ◎高橋龍太の最近の国際大会成績

 《2011年》
 【5月:アジア選手権(ウズベキスタン)】8位(13選手出場)
2回戦 ●[2-0(1-0,2-0)]Jo Kum chol(北朝鮮)
1回戦 ○[2-0(2-0,1-0)]Adnan Mazenkdane(シリア)

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 《2010年》
 【10月:サンキスト・オープン(米国)】(25選手出場)
敗復2 ●[1-2(4-3,0-5,0-3)]Bekzod Abdurakhmonov(米国)
敗復1 ○[2-0(3-1,Tf6-0)]Evan Knight(米国)
3回戦 ●[1-2(1-1,3-2,1-2)]Cyler Sanderson(米国)
2回戦 ○[フォール、2P1:20(0-1,F)]Michael Mitchell(米国)
1回戦  BYE

 【8月:オルドス国際ナダム・スポーツ大会(中国)】優勝(6選手出場)
決 勝 ○[2-0]Yilin,Bayir(ロシア)
準決勝 ○[2-0(4-2,2-1)]Sabdayet(ロシア)
1回戦 ○[2-1(3-1,3-0)]Chotbayaer(中国)

 【1月:ヤリギン国際大会(ロシア)】(25選手出場)
2回戦 ●[1-2(1-0=2:12,0-1,0-4)]Geduev(ロシア)
1回戦  BYE

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 《2009年》
 【10月:NYACホリデー・オープン(米国)】(24選手出場)
敗復戦  ●[1-2(1-0,0-2,0-1)]Mike Poeta(米国)
2回戦  ●[フォール、2P(0-1、F)]Chris Laverick(カナダ)
1回戦  ○[フォール、1P]Mike Harrari(米国)







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