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2011.09.02

【特集】世界選手権へかける(13)…女子51kg級・志土地希果(至学館大)

(文=樋口郁夫)

 伊調千春や坂本日登美らの手によって、日本のお家芸と言える階級となった女子51kg級。ここ2年間、メダルは確保しながらも世界一に手が届かなかったが、今年は“世界の舞台での新人”志土地希果(至学館大1年=右写真)が出場する。

 7月の世界ジュニア選手権(ルーマニア)が初の国際大会という“ルーキー”。当然不安はあったはずだが、それを乗り越えて見事に優勝したのだから地力は十分。「期待と不安が半々」と言いながらも、「楽しみです」という力強い言葉も飛び出し、初出場初優勝が期待できる。

■いい緊張感をもって闘えた世界ジュニア選手権

 初めてのことに臨むにあたっては、だれしも不安に襲われる。だが世界ジュニア選手権では、「緊張はしていましたけど、始まってみると思ったほどではなかった。落ち着いて闘えたし、セコンドの声も聞こえていました。いい緊張感でしたね」と振り返る。

 そんな経験をしているだけに、世界選手権では「押しつぶされるほどの緊張感に襲われることはないような気がします」と言う。経験は100万回の説法よりも効果がある。世界ジュニア選手権での勝因は「怖がらずに攻めることができたこと」。だから「思い切って攻めれば勝利につながると思います」と言う。

 昨年までは、ほとんど目立った成績を残していない。高校最終学年の昨年、全国高校女子選手権では後輩の菅原ひかりに敗れて3位。12月の全日本選手権は平野遥香(日大)に負けて初戦敗退。大学生相手に負けるのは仕方ないにしても、高校生間でも強さを見せられなかった。

 菅原が今年3月の女子ワールドカップ(フランス)51kg級の代表に抜てきされ、この段階で志土地が今年の世界選手権の日本代表となることを予想した人は皆無だっただろう。だが、その約4ヶ月後、志土地が日本代表の座を手にした。

 五輪で実施されないこの階級は、五輪狙いがらみで上下の階級に出る選手がいるので、大会結果だけではなく、上下の階級を含めて過去の実績や練習内容によって日本代表を決めることになっていた。そして志土地が選ばれた。(左写真=4月の全日本選抜選手権で有優勝した志土地)

小学校6年生の時に接した吉田沙保里、伊調姉妹のカッコよさに憧れる

 栄和人強化委員長は「ジュニアクイーンズカップと全日本選抜選手権を制した事実は大きい。強くなりたいという気持ちも十分」と選んだ理由を説明した。「強くなりたい」という気持ち-。それは志土地が中学3年生の時に世界最強の女子レスリング軍団の門をたたいたことからもうかがえる。

 熊本での小学校時代、兄(翔大=日体大~現高田道場)に引きずられるように4歳の時からレスリング教室(上熊本クラブ)に通った志土地は、「嫌だったけど、親がやめさせてくれなかった」と、何となくレスリングをやっている選手だった。

 しかし小学校6年生の時、中京女大(現至学館大)で行われたキッズの合宿に参加し、アテネ五輪でメダルを取った直後の吉田沙保里、伊調千春・馨のオリンピアに接したことで気持ちが変わった。「カッコよかったんです。あんなふうになりたい、とあこがれました」。

 その日から気持ちはオリンピアンへと向かった。しかし、全国中学生選手権は1、2年生ともに2回戦敗退と結果が出ない。「週2回の練習では、強くなれない」。そう思い、愛知県大府市の中学に転校し、中学3年生にして最強チームの練習に加わるという行動に出たのだから、強さを求める気持ちは半端ではなかったようだ。

■不世出の柔道家、山下泰裕さんと“同じコース”

 もっとも、夢はすぐに壁にぶつかった。「練習が辛くて、何度やめようと思ったことか分かりませんでした。来なきゃよかった、と」。合宿所に住まわせてもらったものの、高校の正式な部員ではなく、いわば中学生の体験入部なのだから、やめようと思えば大きな問題もなくやめられただろう。それを留めてくれたのは、OGを含めた先輩達のあたたかい励ましだったという。「どれだけ勇気づけられたか分かりませんでした」と言う。

 中学での1年間と高校での3年間で結果を出すことはできなかったが、5年目にしてやっと世界一を目指す気持ちが花開いた。「監督から、同じことを厳しく何度も言われまして、それで力がついていったんだと思います」と恩師を持ち上げるが、腐ることなく努力を続けたことが、一気に花開いた最大の要因のはず。(右写真=全日本合宿で練習する志土地)

 その雌伏(しふく=耐え忍ぶこと)の中で学んだことと言えば、世界を目指す意識が芽生えたことではないだろうか。熊本県といえば、不世出の柔道家、山下泰裕さんの出身県。山下さんは熊本県の高校で柔道をやっていたが、最強の東海大相模高に転校し世界へはばたくきっかけをつくった。山下さんはのちに、「東海大相模に移って、初めて世界を目指す意識が出てきた」と振り返っている。

「朱に染まれば赤くなる」という言葉があるように、周囲がすべて世界を目指していれば、そうした気持ちになるもの。4年間をかけて花開いた志土地の世界一への思いが、イスタンブールでさらに大きく花開くか。


志土地希果(しどち・まれか=至学館大)

 1992年4月7日、熊本県生まれ、19歳。2009年全日本女子選手権のカデット49kg級で優勝。2010年にジュニアクイーンズカップ、JOC杯、全国高校女子選手権でともに3位。今年、ジュニアクイーンズカップと全日本選抜選手権で優勝。世界ジュニア選手権でも優勝した。156cm。


 ◎志土地希果の最近の国際大会成績

 《2011年》
 【7月:世界ジュニア選手権(ルーマニア)】優勝(23選手出場)
決  勝 ○[2-0(1-0,6-2)]Stalvira Orshush(ロシア)
準決勝 ○[2-1(1-2,2-0,3-1)]Anastasiia Buriatynska(英国)
3回戦  ○[フォール、2P(4-0,4-0)]Luisa Valverde(エクアドル)
2回戦  ○[2-0(2-0,3-0)]Lalita Lalita(インド)
1回戦  ○[フォール、2P(3-0,F4-0)]Eva Tuba(セルビア)







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