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2011.09.09

【特集】世界選手権へかける(20)…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK)

(文=樋口郁夫)

吉田沙保里

 五輪3連覇へ向けての関門がやってきた。女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK)は「今年優勝しないと、ロンドン五輪での優勝はないと思う」と話し、五輪の優勝につながるいつも以上の重みのある世界選手権と位置付ける。

 五輪前年の世界選手権がいつも以上に厳しい闘いになることは、4年前に経験済みだ。アゼルバイジャンで行われた2007年世界選手権は、出場38選手もさることながら、コロンビアといったノーマークに近い国の選手に第3ピリオドの終盤まで粘られ、コイントス(現ボールピックアップ)寸前にまで追い込まれる苦戦を展開。「どの国も勝負をかけてくる」のが五輪前年の世界選手権であり、今回も何が起こるか分からない。

■男子のアジア王者や学生選手と“ガチンコ”スパーリング

 今年の大会はすでに40選手以上がエントリーしている。一昨年に59kg級を制したユリア・レトケビッチ(アゼルバイジャン)と、欧州選手権とゴールデンGP決勝を制して実力が安定してきたイダ・テレス・ネレル(スウェーデン)を筆頭に、昨年59kg級2位で階級を挙げてアジア大会決勝で吉田と闘った張蘭(チャン・ラン=中国)、ここ数年来のライバルのトーニャ・バービック(カナダ)やアンナ・ゴミス(フランス)などが名を連ねる。

 しかし、選手数が多くとも、吉田は「3歳の時からレスリングをやってきて、タックル数はだれよりもこなしている」と言い切る。世界で最高の質の練習を毎日積み重ねているという自信は、どんな過酷な闘いをも勝ち抜けるという確信につながっている。

 勝ち続けることによって世界中から研究され、タックル返しで悔し涙をのんだのは3年半前のワールドカップ(中国)。その4ヶ月前のコロンビア戦(前述)で前兆があり、この試合が連勝ストップの序章だった。それを横からのタックルなどで克服し、北京五輪で金メダルを獲得。その後も振り子式タックルなど研究を重ね、再び連勝街道を歩み始めた。

 今年は男子選手との“ガチンコ”スパーリングをどの年よりもこなしてきた。全日本チームに、つい最近まで現役だった齋藤将士コーチ(警視庁=2007年アジア選手権優勝)が加入。高田裕司専務理事のはからいで山梨学院大の男子選手を合宿に参加させてくれた。これまでにない質の練習で臨むのが今年の世界選手権だ。(左写真=山梨学院大の選手とスパーリングする吉田)

■東日本大震災の被災者に、勇気と希望を与えるのが日本代表

 「ここまできたら、あとは気持ちですね」。五輪V3という、あらゆる競技を通じて日本女子前人未到の偉業に向けて気持ちを高める吉田にとって、今夏は刺激されることが多い出来事が相次いだ。まず女子サッカーの「なでしこジャパン」の活躍。7月のワールドカップで世界一になって国民的な熱狂を引き起こし、いま中国で行われているロンドン五輪予選で五輪キップを獲得した。

 中心的存在の沢穂希選手とは、2006年ドーハ・アジア大会の時に吉田の方から声をかけて以来の親交がある。沢選手がロンドン五輪予選に臨むにあたって、メールで「一緒にロンドンに行こうね、一緒に金メダルを取ろうね」と励まし合ったという。

 「日本代表は国民の皆さんから応援してもらうわけで、闘いを通じて(国民に)希望を持ってもらえることが必要だと思います」。今年は東日本大震災の復興へ向け、日本代表選手にはいつも以上に国民に勇気を与える“義務”が出てきた。

 吉田も震災直後からALSOKによる街頭募金活動やグッズのオークションに全面協力。大会会場では率先して義援金を集め、日本協会の復興支援活動を後押しした(右写真)。母校の至学館大は福島県から避難を余儀なくされた子供達を受け入れており、夏休みにはレスリング教室を開催したが、吉田も講師として参加。子供たちは有名なオリンピック選手を間近に見られて大喜びした。

 至学館大の栄和人監督(女子強化委員長)によると、昨年末から今年にかけて日本スポーツ大賞や東京スポーツのプロレス大賞ほか獲得した賞の副賞(賞金)から、かなりの義援金を寄付しているという。また、三重県でチャリティー・ゴルフ・コンペを主催し、参加者から義援金を集めて被災地に送ったりもした。被災地へ赴くことはなかったものの、物心両面にわたって被災者に勇気と希望を与える努力は惜しまなかった。

■なでしこジャパンのロンドン五輪出場権獲得を受けてイスタンブールへ

 世界選手権の優勝、そして五輪3連覇へ向けて期待が高まる内容を見せることも、被災者に勇気と希望を与えるひとつだ。なでしこジャパンだけではなく、陸上と柔道の世界選手権でも日本選手が金メダルを手にした。日本代表としての責任感をあらためて感じ、「身が引き締まる思いがする」と言う。

 一方、五輪V2の北島康介率いる水泳の世界選手権では3大会ぶりに金メダルなしの成績。陸上はハンマー投げの室伏広治の金メダル1個に終わり、女子マラソンでメダルを逃すなど日本の得意種目が軒並み低調。全体としては厳しい結果となった。柔道は序盤の軽量級こそ好調だったが、途中から尻すぼみ。「世界で勝つこと、勝ち続けることの大変さを実感した。きん差であってでも勝たなければならない」という思いを強くしたという。(左写真=五輪を含めて10度目の世界一に輝いた昨年)

 なでしこジャパンは8日の北朝鮮戦で引き分けたものの、中国がオーストラリアに負けたことで五輪キップを手にした。イスタンブールへ向かう直前の吉田にこのうえない刺激材料となり、吉田の優勝を後押ししてくれることは間違いない。


吉田沙保里(よしだ・さおり=ALSOK)

 1982年10月5日、三重県生まれ、28歳。三重・一志ジュニア教室出身。三重・久居高~中京女大(現至学館大)卒。キッズ時代から全国に名をとどろかせ、2000・01年に世界ジュニア選手権を連覇。2002年世界選手権で優勝したあと、2004年アテネ五輪と2008年北京五輪を含めて世界一に10度輝く。この間、国内外で119連勝をマーク。2010年のアジア大会では、アジア大会3大会連続優勝も飾った。156cm。


 ◎吉田沙保里の最近の国際大会成績

 《2010年》
 【11月:アジア大会(中国)】優勝(11選手出場)
決  勝 ○[2-0(5-0,1-0)]Zhang Lan(張蘭=中国)
準決勝 ○[フォール、1P1:19(F3-0)]Pak Yon Hue(北朝鮮) 
2回戦  ○[2-0(1-0、TF7-0=1:04)]Liliya Shakirova(ウズベキスタン) 
1回戦  ○[2-0(4-0,5-0)]Nomin Erdene Batbaatar(モンゴル) 

 【9月:世界選手権(ロシア)】優勝(23選手出場)
決  勝 ○[2-0(2-0、TF6-0=0:38]Yuliya Ratkevich(アゼルバイジャン)
準決勝 ○[2-0(5-0,3-0)]Maria Gurova(ロシア)
3回戦  ○[2-0(3-0、TF7-0=1:25]Tatiana Yadira Suarez(米国)
2回戦  ○[2-0(TF6-0=0:48T,F6-0=1:33]Tamara Kazaryan(ウズベキスタン)
1回戦  ○[フォール、2P0:54(4-0、F3-0)]Um Ji Eun(韓国)

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 《2009年》
 【9月:世界選手権(デンマーク)】優勝(27選手出場)
決  勝 ○[2-0(3-0、TF6-0=1:16)]Sona Ahmedli(アゼルバイジャン)
準決勝 ○[2-0(3-0,3-2)]Tonya Verbeek(カナダ)
3回戦  ○[フォール、2P1:20(3-0,F3-0)]Ana Maria Paval(ルーマニア)
2回戦  ○[2-0(1-0,2-1)]Anna Gomis(フランス)
1回戦  ○[2-0(TF8-0=1:24,TF7-0=0:55]Rafaliharisolo Maminirina(マダガスカル)







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