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2011.09.16

【世界選手権第4日】女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK)

五輪を合わせて11度目の世界一の吉田沙保里

 【イスタンブール(トルコ)、文=保高幸子、撮影=矢吹建夫】世界V9を達成した瞬間、涙を流して顔を覆った吉田沙保里(女子55kg級=ALSOK)。チャンピオンになって泣くのは久しぶりだ。それほど9度目の王座をつかむことは簡単ではなかった。

 準決勝までは相手に1ポイントも与えず順調に勝ち上がった。女王の風格を示したが、決勝では、うってかわって狼狽(ろうばい)する姿を見せることになる。

 相手はここ数年、何度も対戦しているトーニャ・バービック(カナダ)。準決勝までが良かっただけに、「決勝だけ…、ああいう闘いをしてしまった」と省みる。五輪へ向かう道には魔物が待っている、というのは承知していたが、あまりにもハラハラする闘いだった。

 第1ピリオドは難なく取ったものの、第2ピリオド、スコア2-0でリードしていた吉田は、終了間際になぜかもうひとつポイントを取りに行く。そしてタックルを崩され、レッグホールドで返されて2ポイントを失った。2-2ながらビッグポイントでこのピリオドはバービックが獲得した。

 第3ピリオドはバービックが完全に防御の体勢。その消極性に対してコーションが与えられ、吉田に1点。吉田はさらに場外に押し出して2-0。このあとのタックルをバービックに返される。はじめは0ポイントだったものの、カナダのチャレンジによりバービックに2ポイント。2-2となって時計は1分57秒。

 ここで吉田もバービックも、ビッグポイントの差でバービックの勝利になる、と考えた。実際はコーションによる1ポイントが最優先され、このまま終わっても吉田がこのピリオドを取り、勝者となる。しかし、吉田は2-2では負けると思い、残り3秒で突進して押し出した。

ラスト3秒から1点を取りに行った吉田。時計は1分59秒を示している

 「死ぬ気でいきました」とは吉田のコメント。3-2となったが、これを時間切れだと訴えるカナダ陣営により、再びチャレンジが入る。吉田はこの時間を振り返り、「怖かった」と話す。「最後まで諦めないでとにかく攻めるのが私のいいところなので」と飛び込んだ。「ルールをきちんと把握しておかないと駄目ですね」とは、2-2でも勝っていたことを知らせた試合後のコメントだ。

■がむしゃらにやるのではなく、研究が必要

 バービックは「打倒吉田」を掲げて研究してきているのでやりづらい。「タイミングも、崩し方もばれています。変えていかないと…」と話した吉田。この長い年月、チャンピオンで居続ける事がどんなに大変な事かは吉田が一番知っている。チャンピオンだからこそ、進化し続けなければならない。

 あとでわかったことだが、ひじをけがしていた。会見スペースに現われた吉田は、まず右ひじの痛みを訴えた。それほど痛いけがをしながらも、「ここで負けたらロンドンはない」と自分に言い聞かせて闘った。いつも以上に重みのある大会だった。

 「必死だった」という吉田は、どこの試合で痛めたのかも覚えていないという。「金メダルを取って当たりまえと思われているのは、プレッシャーでは?」との問いに、吉田は「うれしいことです。応援してくれる人がいるから頑張れるのです」と話した。

 今年は国立スポーツ科学センター(JISS)のサポートも万全。以前は合宿でしか見られなかった研究ビデオも、「配布されたipadにいれておけば、トーナメントの途中で見ることができる。これは今までにありませんでした。とてもありがたいですね。これからはただがむしゃらにいくのではなく、研究していかないといけないですから」と吉田。

 今回苦しんだことを振り返り、油断はしていなかった、だが、今まで普通に勝てた相手に対して、やはり少し戦闘モードが足りなかったかもしれない。必要なことは「もっと崩しの練習をする事です。上の階級とももっと組み合って、けがしない程度に練習したい。今持ってるものの質をあげる練習をしていきたい」と言う。

■「このままでは駄目だと思いました」

 「あとは入る勇気が一番大事です。返されても獲りにいこう!というきもちですね」。いくらいいものを持っていても、出さなければ意味がない。最後は気持ち、というのは間違っていない。「決勝は、突っ込む事しか考えていなかったですね。もっとフェイントとかくずしていけば良かったです」

 相手はカウンターを狙っていることは明らかで、フェイントまで気が回らなかった。五輪前年の大会の緊張と相まって、うまくいかなかったところだった。試合後に流した涙はそういう意味もあった。「チャレンジで、もしかしたら、、と怖かったのと、なんて試合をしているんだ、と自分に対して思ったんです」と、悔しい涙でもあった事を吐露した。

 「自分のミスばかりが出たので…。本当に勉強になりました」。今までで一番苦しんだ大会だった。だがそれゆえに「気が引き締まります」と次へつながる気持が出た。「もっと強くなりたい。このままでは駄目だな、と思いました」と続けた。

 「とにかく今回勝ててよかった。五輪まではもう1年切っているので、気持ち切り替えて、3連覇目指していきます」。女王の強さは才能だけでできているのではない。さらに進化して3連覇を達成すれば、前人未到なだけではなく、レスリングのみならずスポーツ全体で見ても不動の女王として歴史に名を残すこととなるだろう。

 次に吉田が身につけるのはいっそう輝く五輪の3つ目の金メダル。努力を惜しまない女王のさらなる進化を期待したい。







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