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2014.08.30

【全日本学生選手権・特集】32年ぶりの記録樹立! 1年生両スタイル王者・奥井眞生(国士舘大)を支えたものは?

(文=樋口郁夫/増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

 まれに見る大逆転劇で32年ぶりの快挙が達成された。男子グレコローマン80kg級決勝。2日前の男子フリースタイル74kg級で1年生王者を達成した奥井眞生(国士舘大)が、第2ピリオドのラスト30秒頃まで0-6という劣勢をはね返して優勝。歴史に名を刻むにふさわしいドラマチックな勝ち方で1982年の小林孝至以来の1年生両スタイル王者に輝き、勝利の雄たけびをあげた。

 奥井は「グレコローマンは勝てるとは思っていなかったんです。気楽な気持ちで出ました」と言う。しかし、勝負の世界にかける人間にとっては、「気楽な気持ち=負けてもいい」ではない。勝っていくうちに「勝ちたい、という気持ちが出てきましたね」と振り返る。

 4月のJOC杯ジュニアのフリースタイル74kg級では、同じルーキーで階級を上げてきた木下貴輪(山梨学院大)に敗れた。優勝は同じ1年生の浅井翼(拓大)。「悔しかった。立ち直れないと思うくらいのショックだった」という大学生活のスタート。

 今大会のフリースタイル決勝では浅井を9-3で破って優勝し、大学生活の立ち上がりのつまずきを帳消しへ。その勢いをグレコローマンにも持ち越し、最高の形で大会を終えた。しかし、「浅井選手も頑張ってくるでしょうし、こちらも頑張らなければなりません」と気を引き締めることも忘れなかった。

■ライバルを意識せず、一戦一戦にかけた

 奥井は和歌山県・和歌山工高時代の昨年、全国高校選抜選手権決勝で浅井に勝って優勝した。春夏連覇を試みたが、インターハイでは準決勝で白井勝太(現日大)に敗れ3位。「あの時は浅井選手に勝つことばかり考えていたら、その前の白井選手に負けてしまった。同じく、JOC杯では上ばかり見ていたことで、木下選手に負けてしまった」と反省の弁。

 この大会のフリースタイルは、学生の第一人者でもある先輩の嶋田大育(国士舘大)が86kg級へ出場。奥井のチャンスも広がったが、奥井自身は「チャンスだと思わずに、一戦一戦おうと思った」と、反省をもとに目の前の試合に集中したことが功を奏した。

 同じマットで先に浅井が試合を行う組み合わせ。しかし、「見ないようにしていました。どうやって決勝に勝ち上がってきたのかも分かりませんでした」と話した。そして浅井との決勝。「去年のインターハイで対戦できず、ずっともやもやが残っていた。闘える喜びがありました」と、宿敵との対決を楽しむかのようにマットへ上がった。

 序盤はお互いに攻めあぐねたが、第2ピリオドになると奥井が相手に圧力をかけて場外ポイントを奪取。さらにバックポイントやローリングとパワーで圧倒した。「和田コーチに言われていたレスリングができて満足している」と笑顔で振り返った。

■必殺のローリング2連発で逆転

 グレコローマンでは、準決勝で世界学生選手権80kg級代表の前田裕也(拓大)に首投げでフォール勝ち。国体少年グレコローマン3連覇の実力を見せた。

 決勝の相手は塩川貫太(日体大)で、昨年の国体少年決勝などで闘った相手。進学を機に階級アップを決めたようで、6月の東日本学生春季新人選手権は85kg級に出場して3位。74kg級の奥井とは明らかにパワーの差が出ていた。奥井は第1ピリオドの序盤、首投げ(4点)とリフトに行くと見せかけての落としで2点を失い、0-6とされてしまった。

 身長差もあり、奥井の必死の攻撃が通じずにラスト30秒まで0-6。ここで相手の技術回避コーションで奥井に1点が入った。奥井の得意技がローリングということを知っている人は、このあと、パーテール・ポジションから奥井がローリングで逆転を狙うと思った。しかし、スタンドで試合が再開。周囲からは「え!」という声が上がった。

 奥井がこの場面を説明する。「グラウンドを選択したんです。でも、『違う』とか言われて選べず、スタンドで試合が再開されることになってしまったんです」。残り時間は少ない。疑問を引きずるより攻撃。「相手の両脇があいていたので」と胴タックルに成功し3-6。すぐにローリングを決めて5-6。

 逆転をかけた2度目のローリングは、すぐには決まらなかったが、一呼吸おいて全身全霊をかけて再度の仕掛け。塩川の体が回転して7-6と逆転。国士舘大陣営からは大歓声があがった。

■奥井を支えた先輩の貴重な一言

 コーションの場面を説明すると、消極性のコーションの場合は、スタンドかグラウンドを選択できるが、技術回避のコーションの場合は、スタンドの技術回避はスタンドで、グラウンドの技術回避はグラウンドで再開することになっている。奥井や周囲の多くは相手の消極性によるコーションと思ったが、実際は塩川が奥井の差しをがっちりとロックしていたことに対する技術回避のコーション(防御のみを目的として体の一部をがっちり固めるのは技術回避の反則行為となる)。このため、奥井に選択権はなかった。

 結果として胴タックルが決まり、ローリングの体勢へ持ち込むことができた。胴タックルの技術もさることながら、疑問の残った判定を引きずらず逆転にかけた集中力と、ラスト30秒で0-6だったにもかかわらず勝利をあきらめない執念…。奥井の精神力の賜物の快挙である。しかし、先輩からの励ましも奥井を力強く支えた。

 励ましてくれたのは、反対ブロックの準決勝で負けた菊本涼馬。決勝進出を逃して奥井との同門対決がなくなったあと、傷心の気持ちを押さえて奥井に「がんばれよ!」と言ってくれたという。「先輩にそんなことを言っていただいたのに、負けてしまっては申し訳ないという気持ちが、試合中、何度か脳裏をよぎりました」。躍進・国士舘大の全員の気持ちが詰まった1年生両スタイル王者誕生と言えるだろ。

 だが、躍進を支える嶋田主将ともいずれ闘わなければならない。それは勝負の世界の宿命。その上も目指さなければならない。奥井のサクセスストーリーは始まったばかりだ。


 







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