(文・撮影=増渕由気子)
53kg級の1階級のみだが、今回の「希望郷いわて国体」から女子が採用され、第1回の女王に6月の全日本選抜選手権48kg級優勝の須崎優衣(千葉・JOCエリートアカデミー/安部学院高)が輝いた。決勝は、地元岩手からの出場で、6月の全日本選抜選手権55kg級優勝の菅原ひかり(岩手・種市高教)に第1ピリオド、鮮やかなテクニカルフォール勝ちを収めての優勝だった。
第1回目の大会は、ふたを開けてみたら北海道、広島以外の45都府県から48・53・55kg級の実質3階級の選手が集まった。
昨年55kg級世界選手権代表の木村安里(群馬・群馬大)を筆頭に、元51kg級世界選手権代表の宮原優(富山・東洋大)、53kg級全日本2位の入江ななみ(福岡・九州共立大)、元アジア選手権チャンピオンの岩群安奈(島根・アイシンAW)、元学生チャンピオンの田中亜里沙(京都・京都八幡高教)ら、カデット、ジュニア、シニアの強豪選手が垣根なく集り、軽量級で最強を決める大舞台が整った。
普段は見られないカードも連発されて見ごたえ十分。その中で須崎は、初戦で長沼美香(岐阜・岐阜工教)をテクニカルフォールで破ると、2回戦の永尾さくら(高知・高知東高)にフォール勝ち。3回戦で元アジア選手権女王の岩群、準決勝でJOCエリートアカデミーの先輩の宮原を相手に無失点の内容で快勝し、準決勝にコマを進めた。
準決勝は入江との対決。「苦戦することは分かっていたので、取られても取り返す練習もしてきました」。予想通り入江は強く、タックルで2点を失った。その時よぎったのが、昨年の全日本選手権の決勝で入江の姉、入江ゆき(自衛隊)に負けたことだ。「あの時と同じ取られ方でした。こんなことをしていてはダメ。あの悔しい思いは絶対にしたくない」と気合を入れ直し、第2ピリオドで逆転勝ちを収めた。
■全日本選抜チャンピオン同志の対戦に快勝して優勝
決勝戦は51kg級や55kg級で実績のある菅原と対戦。しかも菅原は地元・岩手県からの出場で、会場は「岩手がんばれ」の一色。須崎は完全アウエーの状況でマットに立った。
それでも、「接戦になる覚悟はできていたけれども、自分のペース闘うことができました」と実力を発揮。高速タックルからバックに回り込むと、ローリングで加点。その後も攻め続けて1ピリオドの終盤にテクニカルフォールで仕留めた。3階級の選手が入り混じった45人のトーナメント。その頂点に立ったのは、48kg級の須崎だった。
「国体のオファーがあり、53kg級だけれども出たいと思いました。強い相手もたくさんいて、正直不安な気持ちもあったけれども、一つ上の階級で勝つことができたら、世界の48kg級でも勝ちに行けると思うし、自分の力がどこまで通用するのか試したかった」。
ふだんと5kgもの差がある階級でも、「体重差は感じなかった」とさらりと振り返り、体重に関しては「自分のベストで闘うのが一番」と51kg程度に減量したほどだった。48kg級でも53kg級や55kg級をしのぐパワーを持っていることを見せつけた格好だ。
「次の天皇杯(全日本選手権=12月21~23日)はもっと厳しい闘いになる。もっともっと練習して強くなれるようになりたいです」。
リオデジャネイロ・オリンピックで若い力を見せつけた日本女子レスリング。金メダルを取った選手も、8月の試合はすでに過去の話。2020年東京に向けて、「金メダリスト」VS「若手」の闘いは、すでに始まっている。