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2017.01.02

【新春特集】挑戦は、いつも美しい! 日本女性として初めて“メジャー”の舞台へ挑む米岡優利恵さん(2)


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(文=樋口郁夫)

 目指すジェームズタウン大学へ入学するために必要な英語力は、TOEFL525点以上。米岡さんは「TOEFLという英語力の試験の存在すら知らなかったのです」と言う。八田さんからは英会話力の必要性を伝えられ、厳しい道であることを痛感したが、米岡さんの人生の再チャレンジは、もう動き出していた。

 まず、柏市にあるマンツーマンの英語学校に通うことにした。その学校での授業は1日2時間。これだけでは、米国人と普通に会話ができるまでに何年かかるか分からない。そこで、並行して独学で英語の勉強を基礎から始めた。

 「中学1年生レベルの文法からやったんです」と笑う。英語圏である程度生活すれば、最低限度の英会話力は身につくが、文法をしっかりマスターしないと、いつまでたっても正しい英語は話せない。「私、行く、きょうの午後、新宿へ」といった会話しかできないわけで、これでは「ガイコク人」の域を出ない。

 “米国の大学生”になるには、本物の英語力が必要だ。「高校受験、大学受験の参考書も片っ端から見ました。話すだけでは(TOEFLの)試験に合格できないのです」。

■あきらめてしまったなら、将来、子供に胸を張って『あきらめるな』とは言えない

 この時期の生活パターンは、朝5時に起床し、朝食をはさんで午前中は自宅で勉強。それから英語学校に通い、そのあとはアルバイト(米国のスーパー「コストコ」やクリーニング店の店員)。これは英語学校の月謝を稼ぐためだ。

自宅へ戻り、夜は再び英語の勉強。英語学校でのレッスンを含めて毎日10時間以上が英語と向き合う生活。終わってみれば思い出かもしれないが、その最中は「本当に地獄で、何度もやめたいと思いました」と言う。

 ある程度の英語ができるようになったので、無理に米国へ行く必要はない、日本の大学に入り直せばいい、といった考えも脳裏をよぎった。両親は「それでいいじゃないか」という姿勢だったという。

 しかし、米岡さんはきっぱりと言い切った。「ここであきらめれば、『自分は結局、何もやり遂げられなかった』という気持ちが残って、その後の人生を送ることになってしまうと思いました。将来、親になった時、子どもに胸を張って『あきらめるな』とは言えないと思いました」-。

 他のだれかから強制されたわけではなく、自分自身で決めた道だったことが、心を強くもてた要因だった。「あきらめることは、死ぬ1秒前でもできる」と自分自身に言い聞かせ、めげそうになる心を奮い立たせた。

 ずっと頭の中にあったのは、「自分に起こることには、必ず意味がある」という言葉。レスリングに出合ったこと、辛い思い、不本意ながらレスリングをやめてしまったこと、米国の大学受験に挑戦する気持ちになったこと…。そのすべてが、起こるべくして起きたことであり、自分にとって不可欠な出来事なんだ、と信じ、困難から逃げ出すことはしなかった。

■根底で支えてくれたのは埼玉栄高校での3年間

この時に役立ったのが、埼玉栄高校での3年間だったかもしれない。柏の自宅から高校まで、武蔵野線などを使って片道約1時間半以上の距離。7時半からの朝練習に間に合わせるため、毎日5時前に起床して通学。練習が終わるのが午後8時頃で、そこから帰宅して寝る生活。「勉強はしてなかったですね。クラスでビリでした」と笑うが、レスリングを通じて身についた精神力があればこそ、きつかった3年間をしのげたのだろう。

 その努力が実り、昨年1月、見事にジェームズタウン大学に合格した。英語圏での短期留学の経験もなく合格の域に達するのだから、強い意志をもって勉学に励んでいたことが察せられる。

 そのまま入学してもよかったが、入学前に別の大学で優秀な成績を取れば学力奨学金をもらえる制度があったので、コーチに勧められて同じ州にある別の大学に通学し、今年9月(注=米国の大学は9月から始まる)の入学を目指した。

 猛勉強に明け暮れたことが、ここで役に立った。全教科で「A」を取ることができたことで、予定より半年早く、この1月からジェームズタウン大学に入学することになった。この冬はレスリング部に合流して試合に出場できるわけで、2012年夏に頓挫(とんざ=計画が途中でできなくなること)して以来、4年半の年月をかけてかなえた夢のスタートラインだった。

■“折れなかった心”で米国学生レスリング界へ挑戦

 もちろん、大学合格は手段であって、それが夢・目的ではない。厳しさに直面するのは、ここからだ。まず体力を戻すことが必要。受験勉強の3年間、時に体は動かしていたがマットからは完全に離れていたので、体力は半分以下に落ちていたという。

加わるチームには、オリンピック選考会に出場した選手が数人いて、世界ジュニア選手権の銀メダリストもいる。レスリングのレベルはかなり高い。

 昨年の合格以来、正式な部員としてではないが、チームの練習に加わらせてもらったことで、「徐々に体力と勘が戻ってきました」と言うが、さらに厳しいトレーニングをしないとついていけないことも感じている。日本選手と一番違うのはパワーの差。「男子とやっているような感覚」とのことで、日本人では、やはりパワーでは太刀打ちできないだろう。パワーに対抗できるだけのテクニックのマスターが今後の課題となりそう。

「競技人口が多いので、大会が多いです。上の大会に出るための予選も多いです」と、全米学生選手権に出るにも多くの難関がある。だが、英語をほとんど話せない段階からネイティブと専門用語も話せるまでになった“折れなかった心”をもってすれば、決して乗り越えられない壁ではあるまい。「最初は予選を1試合ずつ勝ち抜いていくことです」と話す。

(続く)


 







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