掲載内容の間違い、誤字脱字は、こちらからご指摘ください。

【全日本選抜選手権・特集】一志育ちの“吉田沙保里二世”、世界へ飛び立つ…女子55kg級・奥野春菜(至学館大)

(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)

 いくつかの階級で全日本チャンピオンが敗れた全日本選抜選手権。女子55㎏級は、全日本選手権のみならず、今年1月のヤリギン国際大会(ロシア)と5月のアジア選手権(インド)を制した南條早映(JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高)が1回戦で敗れる大波乱。南條を下した奥野春菜(至学館大)が決勝で2014年世界チャンピオンの浜田千恵(キッコーマン)を破って初優勝を遂げた。

 今年4月のジュニアクイーンズカップでも奥野は南條を破っている。彼女の優勝は「フロック」ではない。奥野は「絶対優勝するという気持ちでやってきた。目標が達成できてうれしい」と振り返る。

 「クイーンズカップの時は、南條選手は手の甲をけがしていたので本調子ではなかったと思います。自分の方が南條選手よりひとつ年上なので、負けるわけにはいかなかった。プライドを持って闘いました」

 吉田沙保里の父、故吉田栄勝さんが主宰する三重・一志ジュニア教室に2歳半で入門。以降、レスリングの道を突き進んできた。地元の久居高校から至学館大というコースは吉田そっくり。「レスリング経験者はひとりという県立高校の小さなクラブでやっていたので、こんな大きな大会に出られる部員なんていませんでした」と言う。

 基本はタックルというレスリングは、栄勝さんに骨の髄まで叩き込まれた。「栄勝さんのことはよく覚えています。攻めるレスリングは一志のスタイル。あいさつなど私生活も結構厳しい方でした。『靴の踵(かかと)を踏んで歩くような人は、いま強くても将来強くなれない』ということも言っていました」

■負けず嫌いの18歳、可能性は無限大

 奥野の特徴は大の負けず嫌いということか。至学館大の練習では世界女王や世界選手権出場組が多い。世界クラスの選手とスパーリングをやって負けたり、押さえられたはずなのに押さえられなかった時には、人知れず悔し涙を流す。「結構泣き虫です。すぐ泣いちゃう」

決勝で闘う奥野春菜

 大会前にはリオデジャネイロ・オリンピックの金メダリストである川井梨紗子や今大会では58㎏級で優勝した坂上嘉津季にスパーをお願いしたという。「坂上さんとのスパーリングでは、1ピリオド目には私がフォールすることができたけど、2ピリオド目はフォールし返された。詰めの甘さが出たと思いました。それだったら意味がない。全体の練習が終わったら、やっぱり泣いていました」

 憧れの吉田沙保里選手には、試合前に「頑張れよ。絶対優勝しろよ」と声をかけられた。  「神様です。人間としても競技者としても尊敬できる。吉田さんは妬(ねた)まれる要素を持っていない。吉田さんみたいな人は、強くて当たり前だと思いますね」

 適正階級は53㎏級がベストだと感じている。周囲は「シニアの55㎏級でどこまでやれるのか」という声もあったが、栄和人監督から「東京オリンピックは(階級区分が変わって)54㎏級になるかもしれない。南條選手に勝っているので、今回は55㎏級に挑戦してみないか。それで優勝できて世界選手権に出られたら一番いい」という助言を受け、55㎏級でのエントリーを決めた。

 「新しい階級が何㎏級になっても合わせる自信はあります。合わせられないとダメだと思う」
 
 今大会の優勝で、8月にパリで行われる世界選手権への出場が濃厚になった(正式には全日本合宿で決定)。世界カデット選手権52㎏級で優勝した実績を持つが、シニアの世界選手権出場経験はない。「出たいという気持ちが強いので、合宿でもアピールできるように努力します」-。

 課題は身体作りと体重増と感じている。「今は朝練習についていくのもやっと。体重は最大でも57㎏。筋量を増やしたい」。負けず嫌いの18歳の可能性は無限大に広がっている。



 

Share on Facebook