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2017.10.17

【押立杯関西少年少女選手権・特集】「タックルは教えません」-、確固たる信念で選手を育成するロータス世田谷・八隅孝平代表

(文・撮影=樋口郁夫)

5選手が参加して金3個、全員メダルのロータス世田谷。後方は八隅孝平代表

 東京から鹿児島までの広域から参加のあった今年の押立杯関西少年少女選手権。5選手が出場した東京・ロータス世田谷が「優勝3人、2位1人、3位1人」の全員メダルという好成績を上げた。団体は3位まで表彰のルールだが、順位をつけるなら4位となる成績だという。

 昨年も2選手が優勝。今年7月の全国少年少女選手権は3階級を制したほか、2位2人という成績。存在感をアピールしている。

 八隅孝平代表は京都・南京都高~法大でレスリングをやり、そのあとプロ修斗へ進んだ経歴。「打撃はうまくなかった」と言う一方、関節技と絞め技では卓越した技術を持ち、グラップリング・ルールでは、のちにPRIDEライト級王者に登り詰めた五味隆典を破ったこともある。2007年12月の「DEEP X 02トーナメント戦」で優勝したあとには、「70kg前後で最強のグラップラーは俺ちゃうか」とマイクアピールした。

 今回、小学1~2年25kg級は同門の決勝戦になるなどの好成績に「当然と言えば、当然です。驚くことはありません」と語気を強め、現役時代と変わらぬ自信を見せた。

 2008年に東京の一等地、世田谷区に柔術とレスリングを中心とした道場「ロータス パラエストラ世田谷」を設立。その後もグラップリングの大会に出場していたが、2013年の「King of Grappling」を最後に指導に専念。現在は道場経営で生計をたて、選手の育成に力を注いでいる。

タックル一辺倒の練習だけが強くなる道でない!

 キッズ・レスリングといえば、「タックルで攻めろ」が共通した方針と思われるが、このクラブは違う方針を掲げる。「タックルは教えません。まずデフェンスを教えます。相手のタックルを切ってバックへ回る技術ですね。それと組み手やグラウンド技です」―。

同門対決となった小学1・2年25kg級決勝

 その理由を「どこもタックルを教えますから、それと違ったやり方があってもいいのでは」と説明する。八隅代表が柔術の練習に力を入れたことも影響しているようだ。柔術は「セルフ・デフェンス」と言われる格闘技で、相手の仕掛けを逆手にとって反撃するのが真骨頂。こうしたスタイルのレスリングがあってもいいという考えだ。

 確かに、日本レスリングの祖、八田一朗会長は合気道を練習に取り入れ、相手の力を利用しての攻撃力の養成に力を入れた。パワー対パワーの真っ向勝負では、なかなか外国選手には勝てない。必要とされるのが、相手の力を逆利用して押さえる技術。タックル一辺倒の練習だけが強くなる道でない。他がやらない練習方法で勝利を目指すことも必要。ロータス世田谷はこのやり方で全国大会でも結果を出している。

 しかし、タックルのない攻撃では「世界で勝てない」と言われているのも事実。吉田沙保里選手の父・栄勝さんは現役時代、タックルを使わず、投げとカウンターで闘うスタイルだったそうだが、「これでは世界で勝てない」との反省から、子供たちにタックルを教えることに専心した。

 沙保里選手の“高速タックル”は父の反省からくるもの。返し技への対応を知らないキッズの年代ならいざしらず、ハイレベルの闘いになればなるほど、タックル力が重要なのでは? 

「オリンピックを目指す、なんて言っちゃいけません」-

 「ボクはそう思いません」と八隅代表。タックルが不要という意味ではない。「タックルは、レスリングを続けてある程度になれば、だれもが練習し、覚えると思います。小さい頃に組み手やカウンター技術を身につけることで、大きくなった時、競り合いに勝てる力が身につくと思うんです」。
 

セコンド席から選手の試合を見つめ、アドバイスを送る八隅代表

 山の頂上を目指すのに、みんなと同じ地点から同じ道で登らなくてもいい、という理論。「組み手の重要性をキッズ選手に教えても、なかなか理解してもらえない。指導者は『タックル!』と教えます。そんな中で、組み手を丹念に教える指導者がいてもいいでしょ」。

 1968年メキシコ・オリンピックを含めて世界を3度制した金子正明さんは、防御に徹することで有名だった選手。八田会長から「守ってばかりで勝てるか!」と散々言われながら、そのやり方で世界を3度制した。常識にとらわれていては、進歩はない。

 タックル至上主義を否定するレスリングがあってもいいし、「世界で勝つにはグレコローマンの技術が必要」との信念でキッズ選手にグレコローマン・テクニックを教える指導者がいてもいい。慣習や常識の打破に挑むことで、新たな時代が訪れる。もちろん、それらを聞いて試したうえで、「やっぱりタックルだ」との信念で臨むのも間違いではない。

 常識から外れる、という意味では、指導者がよく口にする「オリンピック選手を育てたい」という言葉も、「言うつもりはありません」ときっぱり。「『全中(全国中学生選手権)の優勝を目指す』ならリアルな目標ですけど、『オリンピックを目指す』なんてねえ…。言っちゃいけません。(オリンピックを現実的に目標にしている選手や指導者に対して)失礼ですよ」-。

 確固たる信念で選手を育てる八隅代表。キッズ・レスリングに一石を投じることができるか。







2023年世界選手権/激戦の跡
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