日本レスリング協会公式サイト
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2011.09.04

【特集】世界選手権へかける(15)…女子67kg級・井上佳子(クリナップ)


(文=樋口郁夫)

 世界のレスリング界に輝かしい栄光を築いてきた日本女子で、唯一の“弱点階級”が67kg級。2002年にこの階級がスタートして以来、金メダルはなく、それ以前の68kg級でも世界チャンピオンは誕生しなかった。

 今年、その難関に挑むのが井上佳子(クリナップ=右写真)。2007・09年に続く3度目の出場で、「世界チャンピオンになったカナダの選手(マルティン・ダグレニエ)ともやっているし、世界の厳しさは知っている」と気を引き締め、最後の調整に励んでいる。

■2006年には世界ジュニア選手権で優勝

 山口・チャレンジでレスリングに取り組み、2005年アジア・カデット選手権(茨城)で勝ち、翌2006年には世界ジュニア選手権(グアテマラ)で優勝。2008年にもアジア・ジュニア選手権(カタール)を制した。カデット、ジュニアの大会では素晴らしい成績を残しており、潜在力は十分にある選手だ。

 ところが、シニアに上がると国際大会に優勝から見離され、2度の世界選手権ではともに5位。2009・10年のアジア選手権でも連続で銅メダルに終わり、頂上が遠かった。「気持ちの部分が大きいと思います。ここぞという時に、気持ちが弱いから勝てない…。最後まであきらめない気持ちが必要でした」。

 もちろん技術や戦術的な問題もあった。相手に合わせてしまうこと。見合った試合が多く、実力差のある相手とやっても接戦になることがよくあった。持っているものを出し切らないまま2分間を0-0で終わり、クリンチの結果で負けてしまうことも少なくなかった。どんな相手に対しても、いかに攻撃できるかが課題だった。

■攻撃レスリングができてアジア・チャンピオンへ

 その壁を乗り越えたと思えるのが、5月のアジア選手権(ウズベキスタン)。女子の初日に55㎏級の松川知華子(ジャパンビバレッジ)と51㎏級の菅原ひかり(愛知・至学館高)が攻撃レスリングを展開して優勝したことにも刺激され、1回戦から練習のような前へ前と出るレスリングを展開。

 その気持ちは、バックを取ってからも、ひと息つくことなく発揮できた。アンクルホールドの連続攻撃でポイントを重ねるレスリングも見せて(左写真)、見事に優勝を飾った。シニアでの初優勝こそが、本当の意味で世界への登竜門。この優勝は今後に向けて大きな価値ある優勝となりそうだ。

 過去2度出場していずれもメダル獲りに失敗しているだけに、世界選手権の厳しさは骨身に染みて知っている。出てくる選手の実力のほか、「会場の雰囲気、(マットに立つ)緊張感も、その他の大会とは違う」と言う。その緊張感のためと、ポイントを取られたくないという気持ちのため、「動けなくなっている自分がいた」のが過去2度の世界選手権だ。

 それらを乗り越えるのは、「ポイントにつながらなくても攻める気持ち」だと言う。攻撃は最大の防御-。アジア選手権で実行できた攻撃レスリングができれば、日本の女子レスリング悲願の67kg級制覇が実現するだろう。

■被災地のサポートを受けて世界選手権のマットへ

 67kg級は昨年12月の全日本選手権で井上が優勝したものの、今年4月の全日本選抜選手権では土性沙羅(愛知・至学館高)が井上を破って優勝した(取られた2ピリオドとも、0-0からクリンチの防御に失敗)。いつもの年ならプレーオフを実施して決着をつけるが、五輪で実施されない階級は、今年は強化委員会の選考によって代表が選ばれるルールだった。

 日本代表の選出にあたっては、アジア選手権優勝が大きな決め手となったと思われる。土性も7月のゴールデンGP決勝大会で優勝し、シニアの世界でも通じるだけの実力をつけているのだから、紙一重の差での代表選出だった。

 しかし勝負の世界、紙一重の差を乗り切ったことが飛躍へとつながった例はいくらでもある。「世界の代表に選んでもらったのだから、責任をもって優勝を狙います」-。(右写真=2009年世界選手権で優勝したダグレニエと闘う井上)

 井上の力強い言葉を、今春からお世話になっているクリナップがサポートする。東日本大震災によってレスリング部のある福島・四倉工場も被害を受けた。ふだんは至学館大で練習しているので、テレビでしか被害状況を知らなかったが、アジア選手権の優勝報告で訪れた際、被害を実感。「レスリングをやっていいのかな、と思った」と言う。

 被災地で大変な思いをしているにもかかわらず、多くの人からかけてもらった祝福の言葉は大きな支えだ「会社のためにも、頑張るだけです」。井上の3度目の挑戦は間もなくだ。


井上佳子(いのうえ・よしこ=クリナップ)
 1988年4月26日、山口県生まれ、23歳。愛知・至学館高~至学館大卒。2004・05年に全国高校女子選手権優勝。2005年はアジア・カデット選手権でも優勝した。2006年に世界ジュニア選手権で優勝し、同年の全日本選手権で初優勝。2007・09年に世界選手権に出場してともに5位入賞。この間の2008年は59kg級に落としたが結果を出せず、67kg級に戻した。今年の全日本選抜選手権は優勝を逃したが、直後のアジア選手権で優勝。161cm


◎井上佳子の最近の国際大会成績

 《2011年》
 【5月:アジア選手権(ウズベキスタン)】=優勝(7選手出場)
決 勝  ○[2-0(1-0,TF6-0)]Bayarzaya Tsedendorj(モンゴル)
準決勝 ○[フォール、2P(2-0,3-0)]Tatyana Zakharova(カザフスタン)
1回戦  ○[フォール、1P(F6-0)]Ayimgul Allamuratova(ウズベキスタン)

 【3月:ワールドカップ(フランス)】=個人順位3位
3決戦 ○[2-0(3-0,1-0)]Megan Buydens(カナダ)
3回戦 ●[0-2(3-3B,0-1)]Hong Yan(洪雁=中国)
2回戦 ○[負傷棄権、2P0:37(1-0、Inj5-0)]Khadija Bamou(フランス)
1回戦 ○[2-0(1-0,1-0)]Nasanburmaa Ochirbat(モンゴル)

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 《2010年》
 【5月:アジア選手権72kg級(インド)】3位(8選手出場)
3決戦 ○[2-0(6-0,7-0)]Anmol Anmol(インド)
1回戦 ●[フォール、1P(F0-4)]Guzel Manyurova(カザフスタン)

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 《2009年》
 【9月:世界選手権(デンマーク)】5位(21選手出場)
3決戦  ●[0-2(1-3,0-1=2:30)]Odonchimeg Badrakh(モンゴル)
準決勝 ●[1-2(0-1,3-1,0-1)]Martine Dugrenier(カナダ)
3回戦  ○[2-0(3-0,1-0)]Maher Doaa(エジプト)
2回戦  ○[2-0(1-0,1-0)]Olga Zhanibekova(カザフスタン)
1回戦  ○[2-0(3-0、TF6-0=1:00)]Aline Ferreira(ブラジル)

 【5月:アジア選手権(インド)】3位(7選手出場)
3決戦  ○[2-0(6-0,1-0)]Kim Ji-eun(韓国)
準決勝 ●[1-2(0-1,2-1,0-1)]Ma Yan(中国)
1回戦  ○[2-0(2-0,2-0)]Jakhar Geetika(インド)

 【3月:ワールドカップ(団体戦)】個人順位5位
3決戦 ○[2-0(1-0,=2:03,1-0)]Viktoria Mlynarska(ウクライナ)
2回戦 ●[1-2(2-1,0-1=2:04,1-3)]KHILKO Volha(ベラルーシ)
3回戦 ○[2-0(1-0,1-0)]Gray Adeline(米国)
1回戦 ●[0-2(0-1,0-1)]Qin Xiaoqing(秦暁慶=中国)







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