(文・撮影=樋口郁夫)
全国社会人オープン選手権と社会人段別選手権の第1日には、3人の現・元プロ選手が出場。明暗を分けた。“明”は、総合格闘技イベント「PRIDE」などのリングで一世を風びし、“最強のライト級王者”と言われた木口道場出身の総合格闘家、五味隆典(久我山ラスカルジム)。社会人段別大会の初段以下84kg級に出場し、3試合をすべて2-0で勝つ内容で優勝した。
決勝のあとは、「レスリングで勝つのは大変ですよ。打撃のように見合うことはできないし、攻め続けなければならない。休むことができませんから」と息をはずませながらも、「優勝は気持ちいいです」と、満足そうな表情を浮かべた。
プロ格闘家だが、これまでコンバットレスリング大会や東日本少年少女選手権でのシニアの試合にも出場し、アマチュアの大会にも積極的に出場していた。「プロの試合にこだわらず、試合間隔があかないようにいろんな活動をする。いろんな競技に接して刺激を得る」という方針のもとでの行動で、今回もその考えからの参加。
東日本少年少女選手権での試合はデモンストレーション的な意味合いの強いワンマッチだった。レスリングのこうした大会に出るのは初めて。負けると「プロがアマに負けた」と言われる危険がある行動だが、「モチはモチ屋。トレーニングでレスリングはやっていますが、レスリング一本でやっている人には勝てないのが普通」と、何か言われることがあっても気にはならない。「出てよかった」と振り返った。
今闘っているUFC(米国の総合格闘技イベント)ではレスリングの基礎のある選手が多く、その中で勝ち抜いていくためにもレスリングをやる必要性を感じているようだ。
「遅いチャレンジとは思わず、これからもレスリングの大会に出ていきたい」と話し、今後は段別の大会ではなく、全日本社会人選手権や全国社会人オープン選手権にも出てレスリング技術の向上を目指すことを示唆した。
■浜中和宏と田中章仁は優勝を逃す
決勝まで行きながら敗れ、全日本選手権の参加資格を逃したのは全国社会人オープン選手権84kg級に出場した浜中和宏(ラフター7)。高田道場で総合格闘家としてデビューし、PRIDEのリングでも活躍。2004年には現役プロ格闘家として全日本選手権に出場を果たした。現在は選手活動をしておらず、ジムのインストラクターに専念している。一方、「レスリングが好きだから」と、昨年の全日本選手権に出場しレスリングに復帰した。今大会の出場も全日本選手権出場を目指してのもの。「体の動くうちはやりたい。教えている子供たちの刺激にもなると思う」と張り切っていた。
残念ながら決勝で永田裕城(自衛隊)に敗れ、全日本選手権の出場資格は取れなかった。しかし「2位」という実績とエントリー選手数次第では推薦で出場できる可能性もある。昨年に続いてその有志が見られるか。
決勝進出も逃してしまったのは、かつて120kg級で全日本7連覇を達成した田中章仁(専大クラブ)。96kg級に出場し、準決勝で昨年の全日本選手権3位の坂本憲蔵(自衛隊)に0-2で敗れてしまった。北京五輪を逃した後、総合格闘技入りを果たし、この秋も試合に出場したが、「モチベーションが上がらない」と引退を決意。「レスリングが好きだから、体を動かしてみよう」としてレスリングへの復帰参戦に踏み切ったという。
かといって、アマチュアの練習を積んでいたというわけではなく、「フリーターですから…。練習が十分にできなかった。(負けたのは)当然の結果でしょうね」と言う。今後、レスリングへ本格復帰する意思はなさそうで、「レスリングに携わっていける仕事をしたい。教員がいい。こうした大会には出るかもしれませんが」と、どんな形であれレスリングとつながっていきたい気持ちを話した。