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2014.10.24

【特集】世界を目指す“遅咲きのエリート”…男子グレコローマン98kg級・米平安寛(宮崎県協会)

(文=樋口郁夫)

米平安寛(宮崎県協会)

 2020年東京オリンピックへ向けて期待の星に認定され、強化を受けるターゲット選手。ジュニア選手が中心のメンバーだが、今春、大学を卒業した社会人選手も3人いる。男子グレコローマン98kg級の大坂昂(三菱電機)と米平安寛(宮崎県協会)、女子63kg級の渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)。

 3人の中で、高校時代に何の実績もなく、世界へ飛び立つのが最も遅かったのが米平だ。高校入学後にレスリングに取り組んでいては「遅い」とさえ言われる状況下で、レスリングを始めたのが高校1年生の11月。階段を一歩ずつ昇り、オリンピックを目指す位置にたどりついた。

■遅咲きのため、海外でのキャリアはまだ1年

 20日から東京・味の素トレーニングセンターで始まったターゲット選手による第1回の3スタイル合同の合宿。日体大のコーチも務める米平は「年下の選手には負けられないという意地があります」と、力が入っていた。

 取材のため、マットサイドにあるベンチへの着席を請われると、「(練習後でシングレットが)ぐっしょり濡れていますから」と言ってバスタオルを取りに行き、ベンチに敷いてインタビューを受けた。後に座る人への配慮。ここまで気配りする選手は、そういない。マットの上だけでなく、側面的なことでもチームリーダーの力が十分に感じられる。

 遅咲きだったので、海外での試合は昨夏の日体大のポーランド遠征で出場した「シオルコウスキ国際大会」(初戦敗退)が最初で、今年2月のデーブ・シュルツ国際大会(米国=2勝2敗)と7月の世界学生選手権(初戦敗退)に出場した計3大会のみ。世界の経験値はターゲット選手の中でも下だろうが、「しっかり取り組めば、絶対に到達するレベルだということが分かった」という手ごたえを感じた。

 さらに、ターゲット選手の海外合宿としてウズベキスタンで行われた世界選手権に接する機会があり、他国の代表選手と練習させてもらったが、「もっと差があると思った。自信になりました」という感想。何よりも、「あの舞台で闘ってみたい」という気持ちが湧き、大きなモチベーションとなっている。

■高校時代の1日の練習時間は45分!

 中学時代はサッカーの選手。宮崎・都城高校では勉強に専念するためクラブはどこにも所属しなかった。しかし、大きくて頑丈そうな体をレスリング部の南正昭監督(1978・79年全日本大学選手権優勝、1980年全日本選手権2位など=日体大卒)に見出され、「半強制的にレスリング場に連れて行かれました」(笑)。やってみると「面白くなった」というのがレスリングを始めたきっかけだ。

 ただ、進学クラスにいて授業は5時20分まであった。部員が少ないこともあり、1日の練習時間は45分。「10分マットを走り、5分打ち込み、20分スパーリング、10分ウエートトレーニングという毎日でした」。さすがに全国一には程遠く、3年生のインターハイで「最高にくじ運がよくて」という状況でベスト8に進んだのが最高。高校最後の国体では、1学年下で、現在日体大の重量級で闘っている笹川久志(新潟・白根)に初戦で負けている。

 大学へ進んでレスリングを続ける気持ちになったのは、九州のブロック合宿で大学生と練習する機会があり、段違いに強く、「こんなふうに強くなりたい」という憧れと、南監督が何度も口にしていた「強くなれ。強くなるには日体大が最高の環境なんだ」という言葉だった。「それを聞いているうちに、気落ちが盛り上がってきまして」。ただ、オリンピック出場は「まったく意識していませんでした」とのこと。

 他の強豪高校の選手との交流もなかったので情報交換することもなく、日体大がどんなところかよく知らなかったという。「入って、最初の練習で過呼吸になるくらいばててしまい、立てなくなって寝転がってしまいました。とんでもないところに入った、間違いだった、と思いました」と振り返る。相当厳しい毎日だったことが想像できる。

■オリンピック選手との連日のスパーリングで実力アップ

 だが、練習についてさえいけば、無名選手であってもトップレベルにまで実力をつけさせてくれるのが日体大。1年目は何の成績も残せなかったが、2年生の秋季新人選手権のグレコローマン96kg級で優勝する成長を見せ、4年生の時には全日本学生選手権で優勝。無名選手のサクセスストーリーを実践した。

 「1年の終わりにグレコローマンに転向し、松本(慎吾)監督や斎川(哲克)先輩と練習する機会が多くなったことが大きかったと思います。がむしゃらに向かっていっただけなんですが…」。オリンピック選手との連日の練習が、知らず知らずのうちに実力をつけさせてくれた。

 スタミナには自信があり、外国選手との試合でも「ばてばてになることはない」と言う。問題はパワーと技術。「差しや崩し、グラウンドの技術が劣っています」と話し、世界で通用するための課題だ。

■昨年の全日本選手権は4位、「ここでやめては悔いが残る」

 もっとも、学生王者に輝いた昨夏の段階でも、卒業後もレスリングを続けるかどうかは未定だったという。続行を決意させたのは、12月の全日本選手権での1回戦と3位決定戦でともに1点差で負けた悔しさだった。「ここでやめては、悔いが残る」。

 松本監督の後押しもあり、オリンピック出場を目指し、アルバイトと宮崎県協会からのサポートで生活しながらの競技続行となったが、将来は家業を継ぐことを決めているので人生設計の心配はない。レスリング活動に全力を尽くせる境遇だ。

 オリンピック出場のためには、ターゲット仲間の大坂に負けないとともに、斎川を倒さねばならない。今月の長崎国体の決勝で顔を合わせ、テクニカルフォールで負けてしまったものの、決して届かない差だとは感じていない。「昔は雲の上の人でしたが…。絶対に超えなければならない」ときっぱり。

 リオデジャネイロ・オリンピックへ向けて、130kg級から階級を下げると伝えられている強豪選手がいるが、「斎川先輩に勝てる実力をつければ、絶対に負けません。負けるようなら、オリンピックは無理ですね」と語気を強めた。

 東京オリンピックまでに、といった悠長な気持ちはなく、「リオデジャネイロしか考えていません」と、勝負はあと1年半と考えている。遅咲きで、気配り十分のターゲット選手の健闘が期待される。


 







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