(文・撮影=樋口郁夫)
11月26~28日に東京・駒沢体育館で行われた東日本学生秋季リーグ戦。男子フリースタイルA65kg級で、東日本学生リーグ戦の二部リーグ大学の選手である繁高主税(立大2年)が、2試合を勝ち抜いてベスト8に進出する健闘を見せた。
準々決勝では昨年のインターハイ王者の文田健一郎(日体大)にフォールで敗れ、メダル争いに加わることはできなかったが、「行けるところまでは行けた、という気持ちです。(文田は)強い選手ですから…」と話し、力を出し切ったと感じている。
全体の練習後に自主的に筋トレなどをやっており、その成果だと話すが、その一方で、「もう少しできることもあったんじゃないかな、と思います。悔いは残ります」とも。ベスト8で満足しているわけではない。
広島・広島国泰寺高時代は全国大会でベスト16が最高だった。大学でレスリングを続けると決めた時、「それ以上の成績を目指す」と誓った。「東日本でベスト8ということで、目標に近づいていると思います」。今後の飛躍につなげたいところだ。
■日本で5番目の歴史を持つ大学
現在の選手にはピンと来ないかもしれないが、立大はレスリング界で5番目に歴史のある大学。戦前の1939(昭和14)年に早大、明大、慶大、専大に続いて創部された。十数大学が参加していた1950年代の関東(現東日本)大学リーグ戦で最高4位にまで躍進したことがある。
1942年の全日本選手権のフリースタイル・フライ級では立沢弘が優勝。1962年の同フライ級では馬場邦彦が3位に入り、翌年の同バンタム級では原三男が優勝。2年後の東京オリンピックの候補選手としても活躍した。
野球ファンなら、ミスター・ジャイアンツの長嶋茂雄氏が立大出身であることは説明無用。多くのスポーツでトップ選手を輩出した大学だ。
だが、スポーツ推薦入試がなくなったことで低迷。レスリングでは、1963年に関東学生リーグの二部リーグに転落した後、一部リーグで闘うことがなくなった。部の存続も危うかった時代もあり、大学入学後にレスリングに取り組んだ選手によって部が成り立っていた時代もあった。
こうした時期を耐えた後、2008年に「スポーツ競技の実績が優秀であるだけでなく、人格的にも優れ学業に対する高い意欲を持つ者」「立教大学生の模範と成り得る学生」(ともに大学ホームページより)を対象にアスリート選抜入試制度が導入された。高校時代にレスリングの実績のある選手が参戦するようになり、現在は一部リーグ昇格を目指せるところに定着。あと一歩の壁を打破すべく奮戦している。
学業の成績も必要であるため、レスリングの成績(全国大会ベスト16以上)だけで入学できるわけではない。推薦入試を受けても、筆記試験の結果が悪ければ落とされることもある。クラブからの推薦を受けられれば九分九厘入学できる大学が多いので、確実に入学を求める選手は二の足を踏んでしまうのが現実だ。
それでも、現在の部員には群馬・館林高、山形・山形商高、埼玉・埼玉栄高、香川・高松北高など、レスリングの強豪高と呼べる高校の出身選手がそろう。先月の全日本大学選手権では、57kg級で4年生の久保貴(埼玉・埼玉栄高卒)が8位に入賞するなど、上昇へ向けての機は熟している。
この秋からチームを引っ張る大場雅志主将は「目下の目標は、二部リーグで優勝し、一部リーグに昇格することです」ときっぱり。そのためにも、久保と繁高の好成績は起爆剤になることだろう。
■選抜入試制度はできても、競技力アップには多くの課題あり
アスリート選抜入試制度ができたとはいえ、すぐにチーム力がアップするものではない。4年生が抜けて、現在の部員は6人。「10人に満たない部員数では、長時間の練習ではだらけてしまいます」(大場主将)と、練習は授業後の1時間半~2時間。合宿所制ではないので朝練習はやっておらず、一部リーグのチームに比べると練習量は少ない。部員が少ないと、1人でもけが人が出ると大きな影響が出る。「リーグ戦は、必ず何階級かは選手がいない状況です」とのこと。
指導者の問題もある。曾根田明弘監督のほか、OBのコーチも仕事を持っているので、毎日練習に来てくれるのは無理。「毎日とは言いませんが、週2、3回でも全日本レベルのコーチに指導してもらいたい、というのが正直な気持ちです」。制度ができても、チーム力をアップさせるには、もっと多くの条件整備が必要というのが現実だ。
それでも、時に東洋大、法大、青山学院大、慶大などに出げいこに行き、他大学の協力を得て技術向上に余念がない。今大会でベスト8に入った繁高は、「来年はインカレでのベスト8を目指します。リーグ戦でも一部昇格を目指して頑張りたい」と、個人でも団体でも上を目指す気持ちを話す。
■東京6大学の発展は、レスリングの発展につながる!
今年のリーグ戦では二部で準優勝し、東農大との入れ替え戦に臨んだが、チームスコア1-6で敗れ、昇格はお預けとなった。繁高は「一部の選手の『落ちてなるものか』という気持ちが、自分たちの『上がりたい』という気持ちを上回っていたと思います。気持ちの違いだと思います。上を目指す気持ちをもっと強く持って練習と試合に臨めば、必ず結果がついてくると思います」と話し、まず気持ちを強くもって壁に臨みたいという。
部員数が少ないことは、「言い訳にしかなりません。少ないなら少ないなりに、実力をつけるための練習はいくらでもあると思います」。練習後の自主練で力をつけて好成績を残しただけに、説得力のある言葉だ。
東大、早大、慶大、立大、明大、法大で構成される「東京6大学」と言えば、実社会の先端で活躍している人を多く輩出しており、社会的評価は抜群。これらの大学のスポーツ選手が活躍すれば、世間の注目は違う。
また、それらの大学から政財界に多くのレスリングOBが進み、活躍してくれれば、多くのことがレスリングに還元され、レスリングの発展につながる。東京6大学のレスリング部OBの踏ん張りは、レスリングの発展に欠かせない条件だ。
立大のアスリート推薦制度は始まったばかり。文武両道でレスリングに打ち込む選手の参画が待たれる。