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2015.03.17

【連載】ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦(12)「女子ワールドカップ優勝で感じたキッズ指導者の重要性」…強化本部長・栄和人

(日本協会強化本部長・栄和人)

前回記事(米満達弘選手に感謝するとともに、必ず伝統を引き継ぎます


第12回「女子ワールドカップ優勝で感じたキッズ指導者の重要性」

 3月7~8日にロシア・サンクトペテルブルグで行われた女子ワールドカップで、日本が2年連続優勝を達成しました。海外での優勝となると、2005年にフランス・クレルモンフェランで行われた大会以来、10年ぶりの優勝となります。

 2001年にスタートした女子のワールドカップは、当初は海外での大会でもベストメンバーを派遣していました。次世代選手育成の必要を感じ、2007年のロシア大会からは、優勝が至上命令の地元開催を別にして、一・二軍混成のメンバーか若手選手のみのメンバーを派遣するようになりました。2007年大会は全選手が学生(大学院、高校生各1選手を含む)というメンバーでした。

 勝負の世界では、勝つだけではなく、若手選手に経験を積ませる機会も必要です。今年は、世界チャンピオンとしては浜田千穂選手だけが参加し(ただし、チャンピオンになった55kg級ではなく、1階級下の53kg級での出場)、オリンピック選手が一人もいないというメンバーの派遣でしてした。

 その布陣で、しかも63kg級の選手が負傷の回復が思う通りにいかずに全試合棄権するという状況下での闘いでした。その中での優勝は、とても価値ある優勝だと思います。

■今回の代表選手8人は8都府県から参加

 今回の優勝には、もうひとつ、大きな価値があります。代表選手の経歴が、実に多種多様だったことです。今大会の代表選手のレスリング歴をまとめてみると、下記の通りです。

■宮原優(富山・MIYAHARA GYM → JOCアカデミー/東京・安部学院高 → 東洋大)

■浜田千穂(東京・GOLD KID’S → 東京・日本工大駒場高 → 日体大)

■菅原ひかり(秋田・昭和町スポーツ少年団 → 三重・一志ジュニア → 愛知・至学館高 → 至学館大)

■川井梨紗子(石川・金沢ジュニア → 愛知・至学館高 → 至学館大)

■村田夏南子(愛媛=柔道 → JOCアカデミー/東京・安部学院高 → 日大)

■伊藤友莉香(大阪・吹田市民教室 → 京都・網野高 → 環太平洋大 → 自衛隊)

■工藤佳代子(栃木・みぶチビッ子教室/壬生高 → 自衛隊)

■鈴木博恵(京都・宇治クラブ/立命館宇治高/立命館大 → クリナップ)

 “1ヶ所集中”ではなく、多くのチームがかかわっていることが分かります。前回の海外優勝だった2005年大会の代表選手を区分してみますと、至学館大(当時中京女大)の現役・OB選手が7人中5人。出身県別に分けると、7人中4人が青森県出身(八戸クラブ、八戸キッズ)。当時は女子レスリングに打ち込んでいる県やチームが少なく、限られた中から日本代表選手が生まれていた状況でした。

 今回のメンバーは、至学館大と自衛隊所属の選手が2人ずついますが、6つの所属から構成されています。出身県別では、同じ県出身が一組もなく、8つの都府県から出ています。多くの県やチームから日本代表が生まれるようになったことは、女子の普及が進んだことの何よりの証明です。

 全国少年少女連盟の今泉雄策会長を中心とした同連盟の役員が、女子を含めたキッズ・レスリングの発展に尽力してきた結果だと思います。47都道府県のすべてから世界を目指せる選手が生まれ、日本代表を激しく争う状況こそが理想の形です。オープン競技とはいえインターハイに女子が実施され、来年から国体でも女子が始まります。全国レベルでの女子の普及に拍車がかかるでしょう。

■しっかりしたベースがあるから、世界で勝てる選手が育つ

 この状況を見て、あらためて感じたことは、選手を初心者の頃に育ててくださった指導者への感謝の気持ちです。いずれの選手も、キッズ時代の指導者の顔が浮かびますが、各選手に対して将来を見据えたしっかりとした指導をし、ベースをつくってくれたからこそ、世界で勝てる選手に育ったのです。

 私の場合、世界で通じる選手に育ててくれたのは、日体大の藤本英男監督や高田裕司コーチ(現日本協会専務理事)であり、全日本チームに入ってからは当時の福田富昭強化委員長(現日本協会会長)や富山英明コーチ(現日本協会常務理事)からも多くのことを学びました。しかし、レスリングを始めたばかりの頃、鹿児島商工高校(現樟南高校)の加治佐正昭監督から徹底した基礎トレーニングを受けたことが、その後に大きく役立ちました

 あの時、将来を見据えることなく、目先の勝利だけを求めるレスリングを教えられたなら、その後の私はなかったと思います。私は加治佐監督への感謝の気持ちを忘れたことはありません。そんな思いがあるだけに、世界で活躍してくれる選手が出てくる度に、その選手のベースを教えた指導者への感謝の気持ちが出てくるのです。

 ロンドン・オリンピックで吉田沙保里選手が優勝した時、私はまず沙保里選手に吉田栄勝コーチを肩車させ、2人で喜びを分かち合わせました。私よりも先に、栄勝コーチがこの喜びを味わうべきだと思ったからです。状況が許せば、小原日登美選手を育てた八戸キッズの当時の勝村靖夫代表、伊調馨選手を育てた八戸クラブの澤内和興代表にもマットに上がっていただきたかった。

 前回のコラムでも書きましたが、米満達弘選手の場合も、高校でしっかりと育てた山梨・韮崎工業高校の文田敏郎監督がいたからこそ、オリンピック・チャンピオンの栄光につながったのです。

■王国確立のために欠かせない地方の指導者

 世界で勝たせるためには、世界で通じる技術や戦術を身につけている指導者の存在が必要です。全日本チームのコーチにはそれが要求されます。しかし、基礎のできていない選手や、燃え尽きて向上心のなくなっている選手が相手なら、どんなに卓越した指導能力を持っているコーチでも、世界で勝てる選手を育てることはできません。

 強化に必要なことは、すそ野の部分でしっかりとした技術や体力づくりを指導し、モチベーションを与えてくれる指導者の存在です。全国の少年少女クラブや高校レスリング部の指導者の手腕が、レスリング王国確立のために欠かせないのです。

 選手が勝った時、ベースをつくった指導者がもっと評価されるべきだと思います。そうした指導者が表彰され、本ホームページやメディアなどで取り上げられて注目を浴びることで(自分が目立つことを目的にやっているのではないと思いますが…)、他の指導者も目標ができ、指導に力が入るのではないでしょうか。

 吉田栄勝さんやアニマル浜口さんのように、自分の教え子をオリンピックや世界選手権のマット上で肩車できるのは特異なケースであり、だれもができるものではありません。しかし、私たち全日本の指導者は、地方で地道に選手を育てている指導者の存在を忘れてはなりません。そんな人たちに支えられているからこそ、世界の舞台で栄光をつかめる選手が誕生するのです。キッズ・クラブと高校レスリング部の指導者の皆様のご尽力を期待します。

 最後に、今月から強化本部長の重責を任せられることになり、これまで以上に男女全般にわたっての強化に携わることになりましたことを報告します。責任の重さをひしひしと感じますが、多くの方の支えとともに、オリンピックでの勝利を目指して進んで行きたいと思います。よろしくお願いします。


《ネバーギブアップ! 2020年、金メダル10個への挑戦》

■第11回: 米満達弘選手に感謝するとともに、必ず伝統を引き継ぎます (2015年2月13日)

■第10回: 人生は、ネバーギブアップ! 挑戦する気持ちを忘れずに (2015年1月1日)

■第9回: 審判の真剣さとき然さが、日本レスリング界を支える (2014年11月20日)

■第8回: 新たな応援のスタイルを生み出したネット中継 (2014年10月10日)

■第7回: レスリングを支援してくれるお母さんが増えてほしい (2014年8月17日)

■第6回: 試合後にゴミ拾いをしたサッカー・サポーターに学びたい (2014年7月17日)

■第5回: 感謝の気持ちを忘れなかった教え子を、誇りに思います (2014年6月23日)

■第4回: 天国の堀幸奈さんに、必ず世界一の感動を届けます  (2014年5月26日)

■第3回: 35年前の世界ジュニア選手権でのほろ苦い思い出 (2014年5月9日)

■第2回: 米国で頑張る永島聖子さんにエールを贈ります (2014年4月25日)

■第1回: 吉田栄勝さんの功績と思い出 (2014年4月18日)


 







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