(文=増渕由気子)
今シーズンのトップを切って全国高校選抜大会が新潟・新潟市体育館で開幕した。初日の学校対抗戦では、顔がそっくりの監督とコーチが選手に激を飛ばしていたチームがあった。中国地方代表のおかやま山陽(岡山)で、横山茂嘉監督とその息子の横山太コーチだ。
おかやま山陽は、初戦で日本文理大付(大分)に5-2で勝って昨年の初戦敗退から一歩進んで2回戦に進出。そこで優勝経験もある強豪チーム、京都八幡(京都)に2-5で敗れたものの、66kg級と120kg級がフォール勝ちし、一矢のみならず“二矢”を報いて意地を見せた。
横山監督は「1勝することが目標だったから、達成できて一つ前進できた。胸を借りるつもりで闘った京都八幡にも2勝できたことで、やればできるんだな、と思った」と、部を再建してから5年目の節目に向上の兆しが見え、少し満足そうな表情を浮かべた。
横山監督は、20年以上前に一度、同校のレスリング部監督を務めており、チームをこの大会でベスト8に導いたことがあったが、その後、レスリングの指導から離れ、いつしか休部状態へ。横山監督が戻り、2010年に部員4人で活動を再開した。
チームの強化に対する情熱もさることながら、2013年にレスリングがオリンピック競技から外される危機を迎えた時には、嘆願の署名活動に精力的に取り組み、2ヶ月で4万人近い署名を集めるなど、個人で集めた署名数としては全国一の数字をマーク。レスリングへの並々ならぬ情熱を持っている。
父を助ける太コーチは日体大出身。卒業後は自衛隊で5年間、レスリングを本格的に続けてきた。全日本選手権で表彰台も経験している強豪選手だった。父が部を再興して5年目という節目の年に、父と同じ高校に常勤講師として赴任して指導を始めた。太コーチは「5年前に父が指導を再開するまでは、ほぼ休部状態。選手は素人選手を集めて一から育ててきた」と振り返る。
太コーチは、昨年の全日本選手権にも出場する選手兼コーチとして活動を続けている。「指導のほうがメーンになっていますけど、試合に出ることで、よい指導方法が見つかることがあったり、生徒にいい刺激になるかなと思います。体が動くうちは、選手活動も続けたいです」と、指導力向上のために今後も試合にでる意向を示した。
ルールがよく変わるため、技術指導は現役を続けている太コーチが担当している。「基本をしっかり教えて、大学に行ってもつぶれないような将来性のある指導を目指しています」と話せば、父・横山監督は、もっぱら私生活の生徒指導をメーンに行っている。
「部員全員が、学校に無遅刻無欠席の皆勤賞です」と、こちらも成果は抜群。正しい生活をおくった上にレスリングの練習があるためだろう、キッズ・レスリングあがりの選手はいないにもかかわらず、選手たちの吸収は早い。
横山監督は「この5年間で土台ができました。技術面は全面的に息子に任せていますから、生徒たちに技術面を向上させて行きたいと思っています」と更なる飛躍を誓っていた。