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2015.06.12

【特集】“アマチュア選手”として揺るぎない信念! 仕事をしながらオリンピックを目指す…男子グレコローマン85kg級・天野雅之(中大職)


(文・撮影=樋口郁夫)

 社会人になってオリンピック出場を目指すには、そのスポーツをすることが職業の“プロ選手”になるか、会社などの全面的な支援のもとで練習に打ち込ませてもらう“実業団選手”の境遇を得るのが一般的。そのくらいの練習量を積まなければ、世界最高峰の舞台に出て行くのは難しいのが現実だろう。

 そんな中でも、1日8時間労働、場合によっては残業もこなし、あくまでも“仕事外の時間”にレスリングに打ち込んで日本トップレベルを維持している選手も少なからずいる。男子グレコローマン85kg級の天野雅之(中大職)もその一人。社会人生活5年目。昨年の世界選手権(ウズベキスタン)では8位に入賞し、優勝したフランス選手には0-2の惜敗。オリンピック出場を視野に入れている実力を維持している。

 明治杯全日本選抜選手権を2週間後に控えた6月上旬にも2泊3日の出張があり、マットを離れざるをえなかった。この階級の敵は、岡太一、鶴巻宰、角雅人という自衛隊選手。すなわち、練習量も環境も最高レベルにある“プロ”の精鋭たちだ。それでも天野の信念は揺るがない。「この環境を選んだのは自分自身。仕事をしながらオリンピック出場を果たせば、ボクにしかできない感動を(周囲に)与えられる。練習量が劣っている不安はありません」-。

■午前9時から午後5時まで大学職員としての勤務

 中大時代に全日本大学グレコローマン選手権で優勝し、古豪復活の期待を背負って目指した前回のロンドン・オリンピック。2011年12月に全日本チャンピオンとなり、第1挑戦者としてオリンピックの出場枠獲得を目指した。しかし、夢は実現しなかった。「悔しい思いや、ぽか~んとしてしまう空白の期間に襲われまして…」。オリンピックのテレビ中継にチャンネルを合わせると、一緒に汗を流していた選手の輝くシーンが出てきた。辛い気持ちになったという。

 だが、周囲からの「もう一回」という期待と、上司が話してくれた宮本武蔵の「我 事において 後悔せず」という言葉に勇気づけられ、気持ちが変わっていった。「リオデジャネイロを目指すのが本心だということが分かりました」。選手活動を続ける気持ちになるのに、そう長い時間はかからなかった。

 現在の1日の生活パターンは、7時からの中大の朝練習に参加し、9時から5時まで職員としての仕事。そのあとマットワークの練習に加わる。残業の時もあり、練習途中からの参加もあるが、長い時は8時すぎまで勤務が続く。その時はウエートトレーニングなどの自主練習となる。「マットワークができたのは1週間に1、2度ということもあったし、まったくできなかったこともあります」。

 出張の際にはカバンに必ず練習着が入っており、最低でもランニングは欠かさない。その地域の高校レスリング部に連絡し、高校生と練習させてもらうこともあるそうだ。全日本合宿のようにスポーツ選手向けの食事があるわけではないし、マッサージを受けるにもお金がかかる。“アマチュア”という言葉そのものの練習環境。強い精神力と信念とがなければ、実力を維持どころかアップさせて世界8位になることはなかっただろう。

■レスリング活動に専念できる環境がすべてではない

 「プロや実業団の選手と違い、毎日練習できるかどうか分かりません。だからこそ、1回の練習にすべてをつぎ込み、出し切る必要があるんです」。量は少なくとも、質は高いという自負は十分。その生活を4年以上続け、昨年の世界選手権で8位に入れた自信は大きい。「世界に通用したのかどうかは分かりませんが、これだけの成績を残せたことは大きな自信になりました。自分を信じてやっていけば、と思います」。

 練習の質だけではなく、仕事との両立も精神的には強い自信となっている。「社会人として、大学職員として、辛くて大変なこともあります。学生をお預かりしている立場ですので、その面でも責任は重いです。でも、そうした中から強さが芽生えるのではないでしょうか」。レスリングに打ち込む時間はプロ選手や実業団選手に比べれば少ないものの、独立してやっているという気持ちと、人間としての強さが天野を支える。

 最近、“実業団選手”から“仕事重視の社会人選手”になった選手として、長谷川恒平(グレコローマン55kg級)や斎川哲克(同98kg級)がいる。試合会場で会った時、「(仕事とレスリングの両立を)よくやっていたね」と声をかけられたという。自分の努力を認めてくれる人がいることは、大きなモチベーションになる。

 「中大の伝統を復活させたいという気持ちや、学生選手を全日本の舞台に出してやり、一緒にメダルを取りたいという気持ちも、今の自分を支えています」。同期で、ともに大学王者に輝いた中井伸一(フリースタイル98kg級)も“アマチュア選手”として活動を続けているのも、刺激材料のひとつだ。レスリング活動に専念できる環境を得ることだけが実力アップの道ではない。

■計量の前日まで仕事、それであっても…

 今回の全日本選抜選手権には、非オリンピック階級の80kg級で闘っていた鶴巻宰と角雅人が参戦してくるので、学生時代からのライバルだった岡だけをマークすればいいわけではない。悪いことに、鶴巻にはまったく相性が悪く、2012年秋に彼が当時の84kg級に上げて以来、6連敗を喫している“天敵”だ。この壁を破らないと、世界選手権(9月、米国・ラスベガス)へのキップを手にすることはできない。

 「(鶴巻は)うまいですね。遊ばれている、とまでは言いませんが、うまくやられてしまいます。でも、警告とか、1点差とかでしょ。負け続けているという意識はないんですよ」。対戦成績が示すほどの苦手意識はないそうで、「ボクなりに考えています」と対策を練っている。慣例(全日本選手権の2位と3位は同じブロック)なら準決勝で当たる鶴巻との一戦がまず勝負。

 その壁を破っても、おそらく決勝に出てくるであろう岡太一にプレーオフを含めて連勝しなければ、ラスベガスのマットには立てない。きつい闘いだが、後戻りはできない。「計量の前日まで仕事があります。きついですけど、仕事は抜きません」-。純アマチュア選手の意地が爆発するか。


 







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《オリンピック・レスリングNo.62》

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