(文・撮影=増渕由気子)
昨年のMVP選手は、階級を上げても強かった! インターハイ個人戦・男子の120kg級は、昨年の学校対抗戦優勝チームで、MVPを獲得した石黒峻士(埼玉・花咲徳栄)が、決勝で二ノ宮寛斗(岐阜・岐南工)を2-1で下して優勝。昨年の96kg級に続いて2連覇を達成した。
96kg級の体つきのまま120kg級に挑戦した。埼玉には84kg級に“怪物選手”山崎弥十朗(埼玉・埼玉栄)が存在する。同じ学校に弟の石黒隼士が入学し、最初で最後となる兄弟そろってのインターハイに出場するため、ともに1階級ずつアップして県予選を突破した。
120kg級は、昨年高校五冠王者に輝き、高校タイトルを総なめにした山本泰輝(静岡・飛龍=現拓大)が抜けて混戦が予想された。3月の全国高校選抜大会は冨栄雅秀(茨城・霞ヶ浦)が優勝。そこに96kg級王者の石黒が参戦。タイトル奪取に名乗りを上げた。体重や体格は、本格的な120kg級の選手で、石黒とは準々決勝で対決する組み合わせ。
反対ブロックには、6月の関東高校大会で冨栄を破って優勝したモンゴルからの留学生、プレッブソン・デレゲレバヤル(千葉・柏日体)が名を連ねていた。
石黒は、実は120kg級の試運転として関東高校大会に出場する予定だった。だが、体重が120kg級の規定に足りず計量失格。その後、県予選は勝ち抜いたものの、120kg級の本格的な試合はこなせず、ぶっつけ本番でインターハイに臨んだ。
■日大で重量級の強豪相手に練習し、実力をアップ
「本当は場数を踏んで臨みたかった」と本音を漏らした石黒にとって渡りに船だったのが、7月中旬のアジア・ジュニア選手権(ミャンマー)。高校生で唯一メダルを獲得して自信をつけたことと、夏休みには日大の夏合宿に参加し、大学トップレベルの白井勝太や山本康稀などの強豪に練習をつけてもらい、実力を伸ばした。
「けっこうやられたけど、いい練習をさせてもらいました。関東大会に出られなかった分、全日本クラスの選手たちと練習したことで取り返せた」。最大のライバルと思われた冨栄には、1分15秒でフォール勝ちし、圧勝で第1シードを下した。
モンゴル選手が相手かと思われた決勝。しかし、石黒と同じく96kg級を主戦場としていた二ノ宮が出て来た。「120kg級の選手の方がやりやすかった」と振り返ったように、思った以上に苦戦。二ノ宮に差しからコントロールされそうになる一面もあった。「同じ階級の選手ですからプレッシャーがあり、緊張してガチガチだった」と終盤はバテ気味だった。
石黒を支えたのが応援席からの声援だった。「序盤に2点を取った時、歓声が沸いた。僕を応援してくれている人がいると思った」。個人戦のみの出場だった花咲徳栄に大応援団はいなかった。だが、数十人から一斉に歓声を送られたから、石黒もびっくりだ。
その声援は、学校対抗戦で優勝した埼玉栄の応援団だった。「本当にうれしくて力が出た」。埼玉県で予選を闘った相手だが、全国に来たら“チーム埼玉”。切磋琢磨したライバル・チームの応援団の声援を力にして、1点差で逃げ切って優勝した。
小学3年生の時、杉並区相撲大会で女の子に負けたことが悔しく、ゴールドキッズの門をたたいてレスリングを始めた。あれから10年。今や石黒は押しも押されもせぬ高校界のスターに成長。この勢いで5年後の東京オリンピックまで駆け抜ける―。