(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫)
男子グレコローマンの“オリンピック出場枠0”を救う救世主になれず――。世界選手権の男子グレコローマン59kg級は、一昨年55kg級代表の田野倉翔太(クリナップ)が出場。階級変更の荒波を乗り越えて2度目の世界で悲願のオリンピック出場権を目指したが、初戦で昨年3位のスティクアンドレ・ベルゲ(ノルウェー)に1-2で敗れた。ベルゲが決勝に進出できなかったため、銅メダルにつながる敗者復活戦にも回れず、初戦敗退に終わった。
グレコローマンのエースとして挑んだ2度目の大舞台。最軽量級が55kg級から59kg級に引き上げられ、59kg級になってからは国体で学生に負けるなど、国内でも負けこんだ。背水の陣で臨んだ6月の全日本選抜選手権で、アジア選手権2位などの有望株の太田忍(日体大)を破って優勝。プレーオフでも全日本選手権優勝の倉本一真(自衛隊)を鮮やかなテクニカルフォールで下して逆転の世界選手権を決めた。
首脳陣からは、全日本選抜選手権と同じ状態の田野倉だったら「メダル間違いなし」と一押しされていた。初戦の相手が世界3位という肩書にも、田野倉は「ポーランドの遠征での練習試合で普通に勝った相手。怖がることはなかった」と平常心で臨んだつもりだった。
だが、試合が始まってみると田野倉は終始スタンドで押されて相手のペースに。西口茂樹強化委員長(拓大教)が「いい仕上がりを見せていたのに、マットに上がったらまったく別人になっていた」と話すように、先にパッシブを取られ、パッシブを取り返すという試合運びで、後手後手にまわってしまった。
田野倉の武器は、グラウンドから繰り出す豪快な俵返しだ。各ピリオドともに1度ずつグラウンドの攻撃が回ってきたが、そこでポイントを獲れなかったことが痛手だった。田野倉は「2回目のパッシブを取れたのはラッキーだった。その分、決めなければいけないのに得点できなかった。一番のミスです」と反省の弁。
攻撃で完全に相手を宙に浮かせたが、相手が体を前にずらして、田野倉のクラッチが相手の足の位置にずれ、下半身を攻めたということでブレークへ。技を決められずにスタンドに戻った。
報道陣から「なぜ、グラウンドで俵返しを出さなかったか」と、最大の武器を使わなかった理由を問われると、田野倉は、7月のポーランド遠征で、この選手に俵返しを研究されて、遠征の終盤には、かからなくなったことを挙げた。「そのイメージが強くて、俵返しを出せなかった」と、手堅く勝つために得意技を封印したと説明した。
だが、西口強化委員長は、得意技で勝負しなかったことについて、「研究されたから、かからないというのは、得意技ではない」と辛口コメント。田野倉が世界で勝つために、もう一回りの成長を促した。
「緊張していたんだと思います…。マットに上がった記憶がないんです」と、最後に吐露した田野倉。「ここは、開き直って全日本選手権に照準を合わせ、オリンピックの二次予選にかけます」と出直しを誓っていた。