(文・練習撮影=樋口郁夫)
闘っている選手は全く意識しておらず、言われて初めて意識することが大多数。言われても関心を示さない選手もいるが、マスコミが大きく注目する記録のひとつに、「連勝記録」がある。
日体大・水球部の376連勝、女子バレーボール・ニチボー貝塚の258連勝、スカッシュのジャハーンギール・カーンの555連勝、横綱双葉山の69連勝、柔道の山下泰裕の203連勝、アレクサンダー・カレリンの世界&欧州大会114連勝、そして吉田沙保里の個人戦203連勝(継続中)…。勝ち続けることが至難の業であればこその注目だ。
昨年12月の全日本選手権の女子48kg級に初出場した須崎優衣(すさき・ゆい=JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高1年)は、準決勝までに、吉田沙保里も伊調馨も、そして中学1年生で全日本チャンピオンに輝いた“レジェンド”山本美憂も達成していない大記録を継続していた。
中学に進んでから積み重ねた白星が、世界カデット選手権2連覇などの国際大会を含めて「83」にまで伸びた(注=小学校5年の途中から負けていないとのことで、通算100連勝を超えていると思われる)。84試合目で入江ゆき(自衛隊)に敗れて連勝記録はストップしたが、UWWルール・デビュー戦からの83戦無敗は、当分の間、破られることのない大記録として残っていきそうだ。
時代が変わって大会数も違うが、中学1年から高校1年までの4年間の成績となると、山本美憂は15勝1敗、吉田沙保里は44勝3敗、伊調馨は9勝1敗という成績が残っている(地方の把握できない大会は除く)。
■入江ゆき(自衛隊)に完敗した悔しさが残った初の全日本選手権
須崎には、ご他聞にもれず連勝記録に対する意識は全くなかった。中学時代に無敗ということは知っていたが、「目の前の試合の1試合、1試合を全力で勝ちに行くことだけを考えていました」と、頭の中には存在しなかった記録。当然、連勝記録がストップしたことすら意識にはなかった。
初めての全日本選手権出場で残ったものは、決勝で入江ゆきに0-10で完敗したこと。「シニアのレベルの高さを感じました、自分のレスリングが何もできず、自分の駄目さが分かりました」と、痛恨の思いしか残っていない。
準決勝までは、世界学生選手権2位、世界選手権代表、世界カデット選手権3連覇と、実績のある年上選手相手に3連勝していた。「位(くらい)負けしなかった?」との問いに、「ありませんでした」ときっぱり。この結果と気持ちの強さだけでも褒められることであり、底知れない可能性を感じさせてくれるが、決勝の惨敗が心を晴れないものにしてしまった。
試合直後は悔しさいっぱいであっても、時間が経ってみると「よくやった」と思えるケースもあるだろうが、須崎は「今になっても、あの悔しさは消えません。『次は絶対に勝ってやる』という気持ちでいっぱいです」と、再出発の気持ちで満ちあふれていることを説明する。
打倒入江に必要なこととして、組み手の技術、スタンドからグラウンドへ移行するスピードなどを挙げた。今月中旬のクリッパン女子国際大会・カデット49kg級(スウェーデン=カデットの部に出場)が再スタートの試合。
昨年も優勝している大会なので勝つことは当然だろうが、外国選手は「日本選手にはないパワーや返し技を持っている」と油断はしていない。自身の課題をどうこなすかをテーマに、力強く再起の道をスタートしてくれるだろう。
■オリンピック選手の努力を間近に見て気が引き締まった
父・康弘さんが早大レスリング部出身。レスリングのビデオをよく見ていた父に感化され、小学校1年生の時からレスリングを始めた。小学校3年生で全国チャンピオンへ。翌年の全国大会は負けたが、最後の2年間はチャンピオンに返り咲いた。
「レスリングが好きで、練習が楽しかったです。父は、負けたら厳しいことを言ってきましたが、勝つことを求めながら楽しくやることを教えてくれました」と、勝利至上主義の教えではなかったという。今もレスリングが好きで、楽しいという気持ちは変わっておらず、それがゆえに毎日の練習に前向きな気持ちで臨むことができているという。
JOCエリートアカデミーに入所したことで、若くしてオリンピック選手や世界選手権代表と接することができた。スパーリングをやる機会は少なく、やってもらっても、相手にとっては中学生選手を相手にした調整の意味合いが強かっただろうが、須崎にとってはオリンピックや世界選手権の代表選手と直に接することは大きなことだった。
「強い選手は練習後も一人で補強とかをしている。すごい努力をしていることを知りました。自分もここまでやらなければならない、やっていけば世界で勝てる選手になれる、と思いました」。世界トップレベルの選手の闘う姿勢を学び、意識は世界へ向いていった。
■今年の目標は世界カデット選手権3連覇と全日本2大会の制覇
今年の目標は世界カデット選手権3連覇であり、全日本選抜選手権と全日本選手権での優勝。全日本選抜選手権に登坂絵莉(至学館大)が出てくるかどうかわからないが、全日本チャンピオンの入江ゆきのほか、けがの治療で全日本選手権を欠場した2013・14年世界ジュニア・チャンピオン、宮原優(東洋大)の出場も予想され、厳しい闘いが予想される。
しかし、「気持ちをもっと強く持ちたい。全日本選手権で負けた悔しさを糧に、もっと強くなって優勝したい」と、飛躍の気持ちは十分。日本レスリング界に不滅の記録をつくった逸材が、2016年、さらに飛躍する。
◎須崎優衣の83連勝
《2012年》
【ジュニアクイーンズカップ/中学の部(34kg級)】=優勝
(1)1回戦 ○[フォール、1P0:22(F4-0)]西元里杏(埼玉・はんのうCSC山中道場)
(2)準決勝 ○[フォール、2P1:45(TF7-0=1:53,F3-0)]稲垣妙香(三重・四日市ジュニア)
(3)決 勝 ○[2-1(0-1=2:06,5-0,2-0)]山田那瑠亜(北海道・札幌ちびっ子クラブ)
【JOC杯カデット(38kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(4)2回戦 ○[判定]中村 未優(埼玉県:埼玉栄中)
(5)準決勝 ○[2-0(1-0,2-0)]小玉 彩天奈(高知県:一宮中学校)
(6)決 勝 ○[フォール、2-0=0:40]東川 加奈(栃木県:下野サンダーキッズ)
【全国中学生選手権(34kg級)】=優勝
(7)1回戦 ○[フォール、2P0:15(6-0=0:56,F4-0)]田口あい(岐阜・日枝)
(8)準決勝 ○[2-0(TF7-0=1:44,TF7-0=1:25)]川口真央(長崎・有喜)
(9)決 勝 ○[2-0(5-0,TF6-0=0:33)]鈴木里奈(秋田・桜)
【南関東中学選手権(34kg級)】=優勝
(10)(11) =2試合=
【全日本女子オープン選手権/中学生の部(37kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(12)準決勝 ○[フォール、2P0:17(7-0=1:59、F2-0)]岩崎愛子(大阪・堺リベラル中)
(13)決 勝 ○[2-0(4-0,3-0)]田南部夢叶(JOCエリートアカデミー)
【2012年全国中学選抜選手権(37kg級)】=優勝
(14)1回戦 ○[2-0(?)]岩崎愛子(大阪・堺リベラル中)
(15)準決勝 ○[2-0(TF6-0,TF7-0)]鈴木里奈(北志館道場)
(16)決 勝 ○[フォール、1P1:59(F6-0)]田南部夢叶(JOCエリートアカデミー)
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《2013年》
【ジュニアクイーンズカップ/中学の部(37kg級】=優勝
1回戦 BYE
(17)準決勝 ○[フォール、1P0:48(F5-0)]下野佑実(京都海洋教室)
(18)決 勝 ○[2-0(3-0,2-0)]田南部夢叶(JOCエリートアカデミー)
【JOC杯カデット(38kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(19)2回戦 ○[判定]小坂 歩未(岐阜県:マイスポーツ)
(20)準決勝 ○[2-0(TF.TF)]小倉 成海(京都・京都海洋教室)
(21)決 勝 ○[2-0(2-1,2-0)]田南部夢叶(JOCエリートアカデミー)
【全国中学生選手権(40kg級)】=優勝
(22)1回戦 ○[フォール、0:43=6-0]永本 聖奈(三重・四日市羽津)
(23)2回戦 ○[フォール、0:39=5-0]太田 若那 (千葉・我孫子)
(24)準決勝 ○[Tフォール、0:39=8-0]植野麻奈美(京都・網野)
(25)決 勝 ○[3-0]中村未優(埼玉・埼玉栄)
【全日本女子オープン選手権(40kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(26)2回戦 ○[Tフォール、8-0]長谷川華子(サンダーキッズ)
(27)準決勝 ○[Tフォール、7-0]平田菜々子(福原キッズ)
(28)決 勝 ○[Tフォール、7-0]植野麻奈美(網野町教室)
【全国中学選抜選手権(40kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(29)2回戦 ○[Tフォール、0:47=8-0]鈴木里奈(北志館道場)
(30)準決勝 ○[Tフォール、8-0=1:08]中井梨花(刈谷ク)
(31)決 勝 ○[Tフォール、7-0=1:44]植野麻奈美(網野町少年教室)
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《2014年》
【クリッパン/カデット43kg級】=優勝
(32)1回戦 ○[6-0]中村未優(埼玉・埼玉栄中)
(33)2回戦 ○[Tフォール、10-0]大髙梨沙(愛知・至学館高)
3回戦 BYE
(34)決 勝 ○[Tフォール、10-0]小坂泉生(岐阜・マイスポーツハウス)
【ジュニアクイーンズカップ/カデット(43kg級)】=優勝
(35)1回戦 ○[Tフォール、1:42=10-0]鈴木花奈(埼玉・埼玉栄高)
(36)準決勝 ○[Tフォール、3:17=12-2]小坂泉生(岐阜・マイスポーツハウス)
(37)決 勝 ○[Tフォール、3:28=10-0]大高梨紗(愛知・至学館高)
【JOC杯カデット(43kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(38)2回戦 ○[フォール、0:23=4-0]小倉成海(京都・京都海洋教室)
(39)準決勝 ○[フォール、0:48(6-0)]五十嵐 彩季(愛知・至学館クラブ)
(40)決 勝 ○[Tフォール、2;29=10-0]鈴木花奈(埼玉・埼玉栄高)
【全国中学生選手権(44kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(41)2回戦 ○[フォール、1:36=8-0]中井梨花(愛知・碧南中央)
(42)3回戦 ○[Tフォール、2:17=13-2]太田優香(青森・倉石)
(43)準決勝 ○[フォール、1:22=4-0]田村生吹(京都・大宮)
(44)決 勝 ○[Tフォール、2:31=10-0]太田若那(千葉・我孫子)
【世界カデット選手権(43kg級)】=優勝
(45)1回戦 ○[Tフォール、10-0]Veronika Gurskaya(ロシア)
(46)2回戦 ○[Tフォール、10-0]Fatme Mandeva(ブルガリア)
(47)準決勝 ○[Tフォール、0:47=10-0]Ulkar Babajeva(アゼルバイジャン)
(48)決 勝 ○[フォール、6-0]Sonu Sonu(インド)
【全日本女子オープン選手権/中学生の部(44kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(49)2回戦 ○[Tフォール、10-0]谷口茉夕( 芦屋学園クラブ)
(50)準決勝 ○[フォール、10-0]篠原七海( ギルド)
(51)決 勝 ○[Tフォール、10-0]田南部夢叶( JOCエリートアカデミー)
【全国中学選抜選手権(44kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(52)2回戦 ○[Tフォール、0:55=10-0]大谷彩歌(大阪・ 堺リベラル)
(53)準決勝 ○[フォール、0:25=4-0]太田優香(青森・八戸ジュニア)
(54)決 勝 ○[Tフォール、3:06=10-0]田南部夢叶(JOCエリートアカデミー)
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《2015年》
【クリッパン/カデット46kg級】=優勝
1回戦 BYE
(55)2回戦 ○[Tフォール、0:40=10-0]Lisa Ersel(ドイツ)
(56)3回戦 ○[Tフォール、1:50=10-0]Emely Selinger(ドイツ)
(57)4回戦 ○[Tフォール、1:46=11-0]Felicie Milliere(フランス)
(58)決 勝 ○[4-0]大高梨紗(愛知・至学館高)
【ジュニアクイーンズカップ/カデット(46kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(59)2回戦 ○[Tフォール、1:03=10-0]藤原 由美子(京都・網野高)
(60)準決勝 ○[Tフォール、1:24=10-0]佐藤雛子(東京・安部学院高)
(61)決 勝 ○[6-0]中村未優(埼玉・埼玉栄高)
【JOC杯カデット(46kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(62)2回戦 ○[フォール、0:19=4-0]山本 紗希(京都・海洋高)
(63)3回戦 ○[Tフォール、1:20=12-1]木井 さくら(大阪・香ヶ丘リベルテ高)
(64)準決勝 ○[Tフォール、1:47=11-0]大谷 彩歌(大阪・堺リベラル中)
(65)決 勝 ○[Tフォール、3:46=10-0]中村未優(埼玉・埼玉栄高)
【関東高校大会(46kg級)】=優勝
(66)リーグ戦1回戦 ○[判定]中村未優(埼玉・埼玉栄)
(67)リーグ戦2回戦 ○[Tフォール]田南部夢叶(東京・帝京)
(68)リーグ戦3回戦 ○[Tフォール]佐藤雛子(東京・安部学院)
リーグ戦4回戦 BYE
(69)リーグ戦5回戦 ○[Tフォール]鈴木花奈(埼玉・埼玉栄)
【インターハイ(46kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(70)2回戦 ○[Tフォール、0:26=10-0]植野麻奈美(京都・網野)
(71)準決勝 ○[Tフォール、2:12=10-0]田南部夢叶(東京・帝京)
(72)決 勝 ○[Tフォール、2:24=10-0]佐藤雛子(東京・安部学院)
【世界カデット選手権(46kg級)】=優勝
(73)1回戦 ○[フォール、1:12=6-0]Olha Zahayska(ウクライナ)
(74)2回戦 ○[Tフォール、?=10-0]Divy Tomar(インド)
(75)準決勝 ○[Tフォール、1:09=10-0]Lisa Ersel(ドイツ)
(76)決 勝 ○[Tフォール、2:00=10-0]Alleida Martinez(米国)
【全日本女子オープン選手権/高校生の部(49kg級)】=優勝
1回戦 BYE
(77)2回戦 ○[Tフォール]井上莉花(神奈川・釜利谷高)
(78)3回戦 ○[Tフォール]樋口耀(大阪・香ヶ丘リベルテ高)
(79)準決勝 ○[Tフォール]平田菜々子(福岡・自由ヶ丘高)
(80)決 勝 ○[Tフォール]田中亜弥瑠(千葉・柏日体高)
【全日本選手権(48kg級)】=2位
(81)1回戦 ○[Tフォール、3:16=10-0]伊藤史織(至学館大)
(82)2回戦 ○[フォール、3:40=5-0]志土地希果(ジェイテクト)
(83)準決勝 ○[8-3]加賀田葵夏(東京・文化学園大杉並高)
決 勝 ●[Tフォール、4:040-10]入江ゆき(自衛隊)