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2016.07.05

【全日本社会人選手権・特集】会社の応援を力に約4年ぶりの“優勝”…男子フリースタイル65kg級・阿部宏隆(サコス)

(文・撮影=増渕由気子)

 大声援の中でつかんだ優勝だ! 全日本社会人選手権の男子フリースタイル65kg級は、社会人1年目の阿部宏隆(サコス)が準決勝で全日本選抜選手権61kg級王者の有元伸悟(近大職)を8-6で振り切り、決勝で金城希龍(自衛隊)を11-5で破って初優勝を遂げた。

 阿部は「やっと優勝できた。いつも2番や3番だったので、どんな内容でも優勝はうれしいです」と笑顔。国士舘大の時は全日本選手権の表彰台も経験し、学生トップ選手の一人ではあったものの、「優勝」という2文字には、あまり縁がなかった。「優勝したのは、大学1年秋の新人選手権以来。本当に久々に優勝できた」としみじみと振り返った。

 今回の65kg級のレベルは、全日本級の選手が数人出ていて、歯ごたえのあるトーナメントだった。その中でも準決勝で対戦した有元は、現役の全日本選抜王者。階級こそ61kg級をメーンにしている選手だが、阿部自身も学生時代は61kg級を主戦場としていたため、長年のライバルだ。

 「有元選手には過去2回負けたことある。ここがヤマ場だと思っていた。どんな試合でも絶対勝つ」とマットに上がった阿部は、前に出るレスリングで有元から着々と得点を奪って5-2とリードしていた。

 だが、「このまま逃げ切れると思ってしまった」と、阿部の気持ちが守りに入った瞬間を有元にすくわれて残り40秒で4失点。5-6と逆転されてしまう。国士舘大の恩師、和田貴広監督の言葉が頭をよぎった。―最後に逃げたら負けるぞ―。

 終盤に取られて負けることは阿部の負けパターンだった。学生時代、激戦区であっても勝ち抜ける力を持ちながら、2位、3位に甘んじていたのは、ラストをしのぎ切れない部分が大きかった。

■いつもの負けパターンをはね返した社員の大声援

 いつもの負けパターンの展開に阿部を奮い立たせたのは、約20人に及ぶ所属のサコスの社員による声援だった。「休みの日なのにたくさんの方が来てくれ、応援してくださった。その気持ちに応えたくて必死で闘いました」。アスナビで入社したサコスは、この大会に阿部が出場することを全社メールで展開し、応援を促してくれた。

 大所帯の国士舘時代も大声援の中で闘ってきた阿部は、社会人になっても変わらぬ声援の中で試合ができることに感謝の気持ちでいっぱいだった。

 残り40秒、がむしゃらに阿部が攻めたてると、有元も負けじと前に出てきた。「実は、差されたときの攻撃パターンを練習していました」と、有元が差したところをうまく返して2点。この技は世界選手権の動画などを見て取り入れたもので、頭の片隅に置いておいたことが功を奏した。「とっさに思い出せるくらいの冷静さはありました。本来の形ではありませんでしたけど、最後は65kg級の意地です」と、1階級下の王者に対して気持でも勝っていた。

 決勝は、自衛隊の集合教育を受けて今年4月からレスリング班で本格的に競技活動を再開した大学の先輩、金城との対決。有元との激戦を制した後だったこともあり、先制点を許すが、ワンチャンスを逃さず、アンクルホールドを何度も決めて大差をつけた。「金城先輩は簡単に勝たせてくれないと思った」と不安な気持ちもあったようだが、会社の応援を味方につけて快勝した。

 阿部は、2014年長崎国体で台風による特別措置で「ベスト8で国体優勝」という実績はあるものの、実質上の優勝は約4年ぶり。「やっと優勝できて、ホッとした。会社に恩返しできた」と、レスリングにかかる経費などもすべて負担してもらえる高待遇の会社に感謝の言葉を並べた。

 会社では面識がない社員からも「頑張れよ」と声をかけてもらえることもあるようで、「本当にうれしいし、頑張る力になります。この調子で国体、全日本とタイトル取りたいです」とサコスの社名を胸に一層の活躍を誓った。


 







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