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2018.06.12

【特集】「今できるレスリングを、なあなあで終わらせたくない」…グレコローマン転向3年目の川瀬克祥(シリウスEHC)


(文・撮影=保高幸子)

川瀬克祥

 2016年リオデジャネイロ・オリンピックに出場した日本の男子グレコローマンの階級は59kg級と66kg級。現在の階級区分では60kg級と67kg級に相当する。66kg級は、2016年夏から1年半に渡って高橋昭五(警視庁)が王座に君臨していた。67kg級に変わった昨年の全日本選手権では、下山田培(警視庁)が準決勝で高橋を下し、決勝では川瀬克祥(シリウスEHC)を下して優勝した。

 2位に終わったものの、川瀬は2016年国体66kg級で当時全日本王者だった高橋を下していてる。すなわち、この階級は、いずれも日体大卒業の選手による三つ巴の闘いが展開されている。川瀬は元フリースタイルの選手。転向3年目となり、今年こそ世界選手権出場と燃えている。

グレコローマンのキャリア不足を克服できるか

 昨年の全日本選手権決勝は、途中まで互角と思えたが、グラウンドの防御がうまくできず、下山田の得意なリフト技を食らってしまって敗れた。「グレコローマンのグラウンドの防御は積み重ねがものをいう」とは日体大の松本隆太郎コーチ。グレコローマン転向3年では「絶対的な時間が足りない」という一面があるのは事実。

昨年12月の全日本選手権、下山田培(赤)のリフトを必死にこらえた川瀬だが…=撮影・矢吹建夫

 一方で、今も3選手の練習を均等に見ている日体大の松本慎吾監督(日本協会・男子グレコローマン強化委員長)は「3選手は横一線。一瞬の隙が勝敗につながる」と話し、それぞれの選手の実力を認めている。

 川瀬は全日本選手権敗戦の翌日も翌々日も、悔しくて練習したという。松本コーチは「OBになると休みがちにもなる朝練習にも必ず来て、きついメニューでも率先して声を出して後輩を引っ張っている」と話してくれた。

 誰に聞いても「まじめ」という評価。後輩からも「ふだんは面白い先輩。でもストイックで、練習でもどん欲に追求するところを見習いたい」と慕われている。

転機は、脳しんとうの経験と同期の活躍

 元来が真面目な選手だが、さまざまな経験が今の川瀬を作っている。転向の経緯は、2013年の全日本選手権で、大学2年生でフリースタイル60kg級2位に入賞し、その結果を受けて派遣された2014年ワールドカップ(米国・カリフォルニア)に起因する。その試合中、自分の頭が落ちたところに相手の頭が落ち、脳しんとうを引き起こした。

日体大道場で練習する川瀬

 その後、調子がおかしく、1日だけ休んでは練習を再開、を繰り返しているうちに、「ダメージが蓄積し、普段から頭痛や眠気に襲われるようになりました。片足タックルに入った時に相手の膝が少し当たっただけでも脳しんとうになり、倒れてしまうこともあった」と話す。

 脳しんとうについて勉強した。ラグビーの選手は半年離脱したりすると知り、覚悟を決めて大学3年の正月から数ヶ月の休養をとった。その後、足にタックルをすることがないグレコローマンへ転向。

 2016年、同期の太田忍(ALSOK=当時日体大)がオリンピックで活躍するのを見た。卒業と同時にレスリングをやめる、という考えがよぎったこともあったが、それを見てから、レスリングから離れることはできなかった。「オレもあの舞台に立ちたい」-。

 卒業後は縁あって岩手国体の岩手県メンバーとして採用され、社会人レスラーとして選手生活を継続。松本監督は「国体優勝という形で恩を返したが、その後も岩手の企業にサポートを続けてもらっており、高校生の合宿の手伝いなど岩手のためにという気持ちが強い」と話す。川瀬はレスリングを続けられる環境への感謝を行動で返している。

「将来の安定より、今を大切にしたい」-

 脳しんとうの後遺症は定期的に医師に診てもらっているが、40代で呂律が回りにくくなったりする可能性もあると言われている。今も記憶力に自信がない。だが、脳しんとうを経験したことで、「人生は一度きり」という思いを強く持つようになった。「今できるレスリングを、なあなあで終わらせたくない。オリンピックに出るには、そのくらいの気持ちをかけて競技をやらなければ。将来の安定より、今を大切にしたい」と決意を語る。

全日本選手権決勝の相手、下山田培(右)とは、ほぼ毎日練習している

 松本コーチによれば、川瀬は「得点能力はある。フリースタイルのような動きの中からグレコローマンの技を出すので、相手からすればやりづらい選手」とのこと。川瀬に抱負を聞くと、「胴タックル、飛行機投げ、体力で押し切る、といった得意なところを、どの相手にも出せれば優勝できると思います。どんな相手にも挑戦する気持ちで選抜に臨みたい」と淡々と話した。

 闘争心をむき出しにするタイプではない。人生をかけて闘っている姿は、マットで魅せる。







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