(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
準決勝の同門対決を制し、ついに全中チャンピオンに! 全国中学生選手権の男子85kg級は、北脇香(東京・日工大駒場3)が、決勝で岡大智(香川・多度津2)にわずか40秒でテクニカルフォール勝ち。最後の全中で悲願の初優勝を遂げた。
北脇は「3歳からレスリングを始め、小学校の高学年では優勝することもあったけど、中学に入ってから全然成績を残せていなかった。やっと優勝できました」と感無量の様子。準決勝では同級生の濱田豊喜と同門対決だったこともあり、「3年間一緒に練習してきた仲間。今日のアップも一緒にやった。手の内を知り尽くしていて、事実上の決勝戦という気持ちが強かった」と、切磋琢磨してきた相手に勝ったことで勢いづいての優勝だった。
最近の成績不振の理由は、成長期に伴った体の変化にレスリングの適応が遅れていたからだった。「もともと、体格とパワーで勝つレスリングでした。体重が増えて階級を上げたけど、そのスタイルが通用せず、上級生に力負けしていました」。階級に見合った体作りと、その体にあった技術の習得が急務だった。
同校の田島隆史監督は「外部からプロのトレーナーを部で雇って体力測定を行い、科学的なトレーニングを取り入れて肉体改造を行いました」と振り返る。トレーニング方法を学び、理論を理解したあとは、中学生ながら各自でオリジナルメニューが組めるほどになったという。北脇は「何が足りないのか分かるから、そこを重点的に強化したりできた。前までは、何となく知っているトレーニングだけをやっていた」と話し、効率いい体作りができたことを強調した。
この大会のエントリーは中学校単位で行うが、クラブチームで練習している選手がほとんど。その中で、日工大駒場中学は部活動にレスリング部があり、活動しているのが特徴だ。田島監督は「うちは珍しい中高一貫教育をしているんです。東京都内で、男子がレスリングの一貫教育を受けられるのは日工大駒場だけです」と特徴を話す。
クラブチームの場合、学校の部活には入らず、帰宅後にレスリング教室に通うのが一般的。それに比べ、中学校の部活にはメリットがいくつかある。田島監督は「朝練習から学校生活と、一日中一緒にいることができます。勉強からレスリング、人間教育まで総合的に面倒を見ることができます。高校、大学の進路までしっかりサポートしていることも特徴です」。指導者も高田丈裕コーチと2人体制をしいており、いずれもA級審判員でルール研究などもしっかり行っている。
北脇は「今回勝てたのは、自分が頑張ったからというのもあるけど、トレーナーやチームの支えがあってこそ勝てた優勝でした」と、日工大駒場の環境が大きかった点を挙げた。
将来はグレコローマンの選手になりたいという北脇だが、8月の第1回アジア・スクールボーイ選手権のフリースタイル代表に内定している(連盟と協会による正式な決定は後日)。開催場所はレスリングの聖地、イラン。「すごく楽しみにしています」という言葉の裏には、今やグレコローマン大国で知られるイランに行けるからに他ならない。「本場のグレコローマンを見てみたい」と目を輝かせていた。