《JWFデータベース》 / 《UWWデータベース》 / 《国際大会成績》 /
《勝者の素顔=JWFフェイスブック・インスタグラム》
(文=渋谷淳)
2016年リオデジャネイロ・オリンピックの男子グレコローマン66kg級で5位に入賞した実力者、井上智裕(富士工業)は、世界選手権は意外にも今回が初出場。72kg級にクラスを上げてその舞台に立つオリンピアンは「金メダルは不可能ではないと思っている。出るからには金メダルを狙いたい」と言葉に力をこめた。
6月の全日本選抜選手権に優勝して世界選手権出場を決めたものの、7月に行われた全日本社会人選手権は決勝で敗れ(注=ただし77kg級での出場)、続いてトルコで行われた国際大会は1回戦敗退と振るわなかった。どちらも持ち味のディフェンスが崩れ、グラウンドで返されてしまったのが敗因だった。
「守れる、という変な自信が生まれてしまったのかもしれない。組ませてしまうと技がかかりやすくなるので、組ませる前に切る、という形を作っていかないと駄目。最後まで気を抜かないことを含めて、ディフェンスをいま一度見直しているところです」
井上の必勝パターンは、ディフェンスでしのぎにしのぎ、少ないチャンスでローリングを決めるというもの。しかしリオデジャネイロではチャンスでローリングを決められず、3位決定戦で敗れてメダルを逃した。
「スタンドで派手な技がないので、小技でどこまでポイントにつなげられるか。あとはグラウンドで、得意なローリングで最低1回は確実に返す技術を身につけたい。ローリングの細かな組み方、決め方を試行錯誤しています」
もともと、抜群の才能に恵まれているというわけではない。自己分析と研究を怠らず、コツコツと努力を重ねて力をつけてきた。加えて20代後半になってからはけがの予防とコンディショニングも重要なテーマに加わった。「66kg級の時は365日、食事に気をつけていましたけど、階級を上げてからは試合前しか気にしなくなった。でも、当日計量になった今は違います。日ごろの食事から気をつけて、できるだけ脂肪を落とし、減量幅を小さくしようとしています」
前日計量だった66kg級の時は、10kg減量して計量に臨み、翌日の試合までに最低6kgは戻した。当日計量となった今は、計量後の増量は多くても2kg。当日計量によってコンディショニングの重要性はさらに増している。
世界的に層の厚い階級において、「僕は下の方だと思っている。1試合ごとに100%を出さないと勝てないと思っている」と自覚している。それでも「出るからには、1%でも可能性があるなら金メダルを狙う」と言い切るのは、2020年の東京オリンピックを見すえているからに他ならない。
非オリンピック階級の72kg級から落とすのか、上げるのか、というテーマは、「最後まで悩むと思う」と言うが、最終目標である東京オリンピックの舞台に立つためには、まず足元を見つめなければならいことを、オリンピックを経験している30歳は知っている。
「目の前の試合を一戦、一戦、勝っていくだけです」。まずは世界選手権でベストを尽くすまでだ。