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《勝者の素顔=JWFフェイスブック・インスタグラム》
(文=渋谷淳)
女子75kg級で2016年リオデジャネイロ・オリンピックに出場した渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)が、今年は女子68kg級で世界選手権の舞台に立つ。がんを克服した“奇跡のレスラー”に目標を問うと「出るからにはメダルを獲って帰りたい」とすぐに答えが返ってきた。
リオデジャネイロの2ヶ月前に胸の痛みを訴え、オリンピック後の診断で悪性リンパ腫(血液のがん)と判明した。1年間の闘病生活を送り、復活した今年6月の全日本選抜選手権で優勝。今回の世界選手権代表に選ばれた。
昨年の練習再開当初は「1年間まるっきり休んで、体に薬(抗がん剤)をいれていたので、息が上がるような練習をすると、ふらついたり、力が入らなくなったりした」という。そのような状態からコツコツと努力を積み重ね、「かなり体力は戻ってきた」というが、元の状態に完全に戻ったわけではない。
「今の実力からすると、私はまだまだ練習も足りていないし、代表選手の中でメダルが獲れない可能性が一番高いかもしれません。代表に選ばれただけでも感謝ですけど、だからこそメダルを狙わないといけない。オリンピックを目指してやってきたからこそ、そこは譲ってはいけないと思っています」
言葉にすると悲壮な印象を与えてしまうかもしれないが、現実をしっかり見据えた上で心に決めているのは、「今、自分ができるレスリングをすること」。昔の自分を追い求めるのではなく、新しい自分を作っていこうという発想だ。
その中で絶対に外せないのが「攻める姿勢」だという。「あきらめないで攻める、攻めて取りにいく姿勢は崩したくない。守るレスリングよりも、攻めて負けたほうが悔いはないと思う。せっかくつかんだチャンスなので、後悔はしたくない」
攻める姿勢はタックルに結びつく。「タックルで取り切ることを常に意識して練習している」。少しずつではあるが、病気をする前とは違う、新しい渡利ができあがりつつあるようだ。
もう一つ、体重というテーマも渡利にとっては大きな課題と言えるだろう。普段の体重は「練習後に65kgくらい」と、このクラスでは軽い。増量という選択肢もある中、今回は無理に体重を増やさず、ベストコンディションを優先して自然な状態で大会に臨むつもりだ。
大会が終われば、68kg級にとどまるのか、階級を下げるのか、という難しい選択を強いられることになるが、まずは目の前の世界選手権68kg級に全力を注ぎ、その内容も踏まえて先のことは判断する。
「昔はいろいろなことにとらわれていたけど、残り少ないレスリング人生を楽しみたい」と渡利。ハンガリーのマットを思う存分に楽しむつもりだ。