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《勝者の素顔=JWFフェイスブック・インスタグラム》
(文・撮影=樋口郁夫)
「ブダペストは縁起のいい場所なんですよ」。男子フリースタイル重量級の期待を集める山口剛(ブシロード)は、明るい表情で話した。
2012年ロンドン・オリンピックで好成績を残した日本だが、世代交代となる2013年は苦戦し、ブダペストでの世界選手権の男子は両スタイルでメダルなしに終わった。その中で健闘したのが96kg級に出場した山口。地元ハンガリーの選手を破るなどして8位に入賞し、グレコローマン96kg級の斎川哲克の5位とともに、日本重量級の新たな歴史をつくる予感を感じさせる結果だった。
あれから5年。戦線離脱を余儀なくされた大けがを経て復帰。しかし2016年リオデジャネイロ・オリンピックを逃し、一度はマットを降りたが、再びブダペストのマットに立つ。3月のアジア選手権(キルギス)では銅メダルを獲得し、以前の実力に戻りつつあることを証明した。
8月のアジア大会(インドネシア)は、3位決定戦の第2ピリオド、バッティングによって額から出血するアクシデント。血が止まらない状況となり、無念のドクターストップがかかってしまった(試合後、5針縫合)。
相手はリオデジャネイロ3位のマゴメド・イブラギモフ(ウズベキスタン)。その時点でスコアは0-6と劣勢だったが、3月に45秒で完敗した相手に、第2ピリオドまで闘えた内容に「手ごたえを感じた試合だった」と振り返る。単に「長く闘えた」というだけではなく、タックルに入って脚をつかむことができたし、「相手がばてていたことがはっきり分かった」というほど攻めた試合だった。パワーのある外国選手に日本選手が勝つには持久戦に持ち込むことが常道とされているが、その前にパワーでやられてしまうのが現実。山口は「あのまま試合が続いていれば…」と悔やむ。
ばてていても、いざという時には信じられない粘りを見せるのが強豪なので、6点差を追いつけたかどうかは分からないが、手も足も出なかった選手に勝つ一筋の光明が見えたのは確か。「明らかな感触と、復帰してからの成長を感じた」と、上向いた気持ちで世界選手権へ臨めそうだ。
山梨学院大の重量級で活躍していたオレッグ・ボルチンが、昨年からブシロードに加入。早大や山梨学院大、さらには全日本の合宿で数多くの練習をこなしてきた。ボルチンがカザフスタンの代表となり、ナショナルチームに加入することによって自国に呼ばれることが多くなり、「今年はあまり練習する機会がなかったんですよね」と残念そう。
一方で、アジア大会125kg級代表の荒木田進謙が、ブシロードを親会社とする新日本プロレス「athletic camp LION」に入り、練習する機会が増えた。マットを降りたところでも頼りがいのある先輩であり、「環境は以前よりずっと恵まれています」と言う。
世界のフリースタイル97kg級は、カイル・スナイダー(米国)とアブデシュラシド・サデュラエフ(ロシア)という2人のオリンピック王者の壮絶な闘いが今年も再現されることが予想され、レスリングに携わっている人々から最も注目される階級と言えるだ
「闘ってみたい」と山口。世界トップの選手の実力を知るには、見るだけでは足りない。闘ってこそ分かるのであり、今後の指針が見つかる。スナイダーは4月のワールドカップ(米国)で直接見ており、「処理が早いですよね」との感想。インスタグラムでトレーニングを公開しているそうで、「肉体をつくるため、すごいトレーニングをしています。目標です」と話す。
闘うことによって、その目標がさらに明確になるだろう。「1回戦で(どちらかと)闘いたい」-。世界が注目する選手との対戦を熱望し、山口が縁起のいいブダペストへ向かう。