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(文=渋谷淳)
男子グレコローマン82kg級代表の前田祐也(鳥取・鳥取中央育英高職)は2015・17年に続き、今年が3度目の世界選手権出場。「メダルを持って帰りたい」とこれまで手の届かなかったメダル獲得を目標に掲げた。
初出場だった2015年の世界選手権では、「試合直前に戻しそうになるくらい緊張した」そうで、コーチの声もほとんど耳に届かずに初戦敗退。2017年は、その時ほどガチガチではなかったとはいえ、「コーチに言われていたことができず」に再び初戦で姿を消した。
2度の世界選手権を経験して得た課題は「前半から全力でレスリングをすること」。負けるパターンは、瞬発力があって前半に強い外国人選手に先制点を許してしまい、追いかける展開になって、結局最後まで追いつけないというもの。それがゆえに、常に最初から全力で前に出るよう、意識して練習してきた。
「まだまだ理想には遠いですが、最後の合宿でさらに追い込んでいきたい。試合の最初から飛ばしても、後半に体がぶれないような体力をつけたいと思っています」
地元の鳥取県琴浦町では公務員としてフルタイムで仕事をしている。朝は8時に出勤し、職場を抜け出せるのは午後6時ごろ。それから高校で高校生と練習ということになるが、この時間だと部活動はもう終わりに近い。すなわち、マットワークができるのは土日のみだ。
その数少ないマット練習も、パートナーは高校生だから日本のトップレベルとも大きく差がある。このような環境で世界を目指すのは、至難の業と言えるかもしれない。「平日はランニングと筋トレで体力をつけようとしています。高校に長距離の先生がいて、平日は一緒に走ってくれるんです。ほんとうに職場の方、地域の方の支えでレスリングを続けられています」
地方で一人で練習している。だからハンディには違いないが、一方でそれが大きなモチベーションにもなっている。東京で試合があっても、合宿があっても、みんないつも「がんばってこい」と快く送り出してくれる。「こんなありがたいことはない」、というのが前田の素直な実感だ。
「こうして全日本の合宿に来られるのも、自分がいない間の業務を周りの方がやってくれているからです。近所の人も応援してくれています。その人たちに恩返しするには、自分が結果を出さなくちゃいけないという気持ちがあります。そうなるとメダルというのが一番分かりやすいですよね」
これまで2度の世界選手権を経験し、何をしなければならないかは分かっているつもりだ。あとはそれを実行できるかどうか。「ひとつ勝って勢いをつけたい」。まずは世界選手権初勝利がメダルへの第一歩となる。