日本レスリング協会公式サイト
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2020.08.22

【担当記者が見たレスリング(16)】スイミングクラブや体操教室ぐらい身近な競技に!…金島淑華(朝日新聞)

(文=朝日新聞・金島淑華)

 私には、もうすぐ3歳になる息子がいる。平均と比べてかなり体が大きい。まだ歩くこともできない頃、日本レスリング協会元理事の村本健二さんに抱っこしてもらう機会があり、「胴がしっかりしている。レスリングをやらせたらいい」と勧められた。

年々盛んになるキッズ・レスリング。さらなる発展が望まれる=2019年全国少年少女大会(和歌山市)

 体を動かすことが好きで、体力を持て余す日々。村本さんの助言通り、レスリングをやらせてみようと思い、パソコンに向かった。まず日本レスリング協会のホームページで調べてみた。リンク集に「レスリング・クラブ(少年・中学)」とあり、全国各地のクラブが一覧になっていた。これはありがたい。我が家がある東京都のクラブを上から順にクリックしてみた。

 だが、ここで問題が生じた。5ヶ所あるうち、2ヶ所はサイトが見つからないなどの理由でリンク先に飛べなかった。残り3ヶ所は都心にあり、23区外の我が家から通うには遠すぎる。

 次にネットで「レスリング」「キッズ」「東京」と入力し、探してみた。いくつかヒットしたものの、我が家から最も近い永田克彦さん主宰の「WRESTLE-WIN」まで電車を乗り継いで1時間以上かかる。「楽しくレスリングを教われればいい」。現時点で親の気持ちはその程度なので、往復2時間の送り迎えはつらい。

 レスリング関係者の助言で、全国少年少女連盟のホームページにある全国クラブ一覧を見させていただいた。東京都だけで30のクラブが並んでいた。しかし、場所が分からない。住所と電話番号だけでも書いてくれればいいのに、とため息が出た。

全日本チームの練習で見た衝撃の場面

 私は2015年からレスリング担当になり、2016年リオデジャネイロ・オリンピックを取材させてもらった。練習や合宿を見て、スパーリングの激しさにはもちろん圧倒されたが、特に驚いたのがウォーミングアップや全体練習後の補強だった。

リオデジャネイロ・オリンピックで金メダルを獲得した土性沙羅、登坂絵莉、伊調馨(左から)の3選手。男子代表の樋口黎選手と高谷惣亮選手の応援に向かったものの、会場から離れたところで車から降ろされてしまい、小走りで向かっているところに遭遇した。結局、初戦には間に合わなかったものの、汗だくになりながらも「2人とも勝ってよかった」と一安心の3選手=2016年8月19日(筆者撮影)

 マットの上でいとも簡単に宙返りをしたり、女子選手でも手だけでロープを上り下りしたり。これまでプロ野球やサッカーなども取材してきたが、「これはすごい。ありとあらゆるスポーツの基本が身につく。いつか子供が産まれたら絶対に体験させたい」と思ったほどの衝撃だった。

 のちにリオ・オリンピック女子48kg級金メダリストになった登坂絵莉選手から「子どものうちにレスリングをやるのはお勧めです。身体の使い方がうまくなるので、他の競技に転向して伸びている子もいます」と聞いて、「やっぱり!」とうれしくなった。

 だが、残念なことに、実際に子供が産まれ、いざという時、前述したとおりの「壁」が立ちはだかった。幼少期の習い事として身近なスイミングクラブや体操教室はあふれるほどある。私の周辺では入会が順番待ちのところだってあるのに……。

 そういえば、リオ・オリンピックのメダリストたちは皆、親がレスリング経験者か近所にレスリング・クラブがあった。素人が思い立って子どもに習わせるのは容易でない競技、ということか。ああ、もったいない。

吉田沙保里の敗戦で感じた危機感

 日本協会の資料によると、世界選手権で初めて女子が実施された1987年、出場したのは8ヶ国の42選手だった。それが2019年は55ヶ国で252選手にのぼった。階級が増えているので単純に比較できないにしても、世界的なレスリング人口が確実に増えていることは分かる。

2016年2月のアジア選手権(タイ・バンコク)。会場までのバスの中で選手を撮影する筆者

 リオ・オリンピック女子53kg級で吉田沙保里選手を破って金メダルに輝いた米国のヘレン・マルーリス選手は、会見で「沙保里がどのように考え、どのような戦略を立てるか研究した」と明かした。試合の映像を見るだけではなく、インタビューを翻訳し、出演しているCMまで見たという。

 私はこれを聞いて、危機感を覚えた。一時代を築きながら、体格で日本を上回る外国勢に技術をまねられ、追いつき追い越される…。女子レスリングも、バレーボールの東洋の魔女や体操ニッポンになりかねないと。

 すでに普及に尽力されている方がいるのは承知しているが、個人個人が頑張るのではなく、日本協会をあげて取り組んでいただきたい。男女問わず、競技人口を増やすことで、国内でも切磋琢磨しながら競技力を向上できる環境が生まれるはずだ。草の根レベルで言えば、幼稚園などで行われている体操教室のように、マットがあれば十分やれると思う。

 近い将来、我が家の近くにも、レスリングができる場所がつくられることを願っている。

金島淑華(かねしま・しずか)1982年、宮城県生まれ。2005年に入社。レスリング取材歴は浅いが、2016年のアジア選手権(タイ・バンコク)でUWW女性委員会メンバーにイランの女子レスリング事情を聞いたり、同年、伊調馨選手が13年ぶりに敗れた(不戦敗を除く)あと、初の公式戦となったポーランド・オープンを現地で取材したりした。

担当記者が見たレスリング

■8月15日:台頭する都市型スポーツ! レスリングの危機は去っていない…船原勝英(元共同通信)
■8月8日: マイナーからメジャーへ変貌! 選手はもっと主張していい…山口大介(日本経済新聞)
■8月1日:今はオンライン取材だが、いつの日か発信力を取り戻してほしい…牧慈(サンケイスポーツ)
■7月25日:IOCに「認められる」のではなく、「認めさせる」の姿勢と誇りを…森田景史(産経新聞)
■7月19日:弱さを露わにした吉田沙保里、素直な感情と言葉の宝庫だったレスリング界…首藤昌史(スポーツニッポン)
■7月11日:敗者の気持ちを知り、一回り大きくなった吉田沙保里…高橋広史(中日新聞)
■7月4日: “人と向き合う”からこそ感じられた取材空間、選手との距離を縮めた…菅家大輔(日刊スポーツ・元記者)
■6月27日: パリは燃えているか? 歓喜のアニマル浜口さんが夜空に絶叫した夜…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月20日: 父と娘の感動の肩車! 朝刊スポーツ4紙の一面を飾った名シーンの裏側…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月13日: レスリングは「奇抜さ」の宝庫、他競技では見られない発想を…渡辺学(東京スポーツ)
■6月5日: レスラーの強さは「フィジカル」と「負けず嫌い」、もっと冒険していい…森本任(共同通信)
■5月30日: 減量より筋力アップ! 格闘技の本質は“強さの追求”だ…波多江航(読売新聞)
■5月23日: 男子復活に必要なものは、1988年ソウル大会の“あの熱さ”…久浦真一(スポーツ報知)
■5月16日: 語学を勉強し、人脈をつくり、国際感覚のある人材の育成を期待…柴田真宏(元朝日新聞)
■5月9日: もっと増やせないか、「フォール勝ち」…粟野仁雄(ジャーナリスト)
■5月2日: 閉会式で見たい、困難を乗り越えた選手の満面の笑みを!…矢内由美子(フリーライター)







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