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2020.09.05

【担当記者が見たレスリング(18)】いつの日か、ヘビー級で日本人世界王者が誕生してほしい!…渋谷淳(スポーツライター)

(文=スポーツライター・渋谷淳)

レスリング界の“キング”として存在する世界V12のアレクサンダー・カレリン(ロシア)=2009年1月、ナショナルトレーニングセンター(現・味の素トレセン)

 かつて勤務した新聞社の上司がレスリング界の巨人、アレクサンダー・カレリンをこよなく愛していた。レスリングをまったく知らなかった私が原稿に「俵返し」と書くと、当たり前のように「カレリンズ・リフト」と書き直されたことをよく覚えている。

 オリンピック3連覇など輝かしい実績を残したカレリンは、男子グレコローマン130㎏級の選手だった。最重量級である。レスリングを取材するようになっても、私はかつての上司ほどカレリンにのめり込むことはなかったものの、「最重量級は特別なんだ」という思いはずっと持っていた。世界で一番強い男がヘビー級チャンピオンであることは、論を俟(ま)たないだろう。

 言うまでもなく、日本のレスリングは伝統的に軽量級が強く、重量級は苦戦を強いられている。オリンピックでメダルを獲得した47人の日本選手のち、重量級と言えるのは1984年ロサンゼルス大会と88年ソウルで連続銀メダルを獲得した男子フリースタイル90kg級の太田章だけである。

国内敵なしの選手でも…、厳しい世界の壁!

 大陸予選が導入された1992年のバルセロナ大会以降、重量級選手はオリンピックの出場権を獲得するのもひと苦労。最重量級でオリンピックに出場できた選手は、1996年アトランタ大会グレコローマン130㎏級の鈴木賢一までさかのぼらなければならない。

2014年世界選手権、園田新は世界V3のロシア選手をフォール寸前に追い込んだが…=撮影・保高幸子

 私がレスリング取材をはじめた2003年以降を見ても、フリースタイルの田中章仁、彼のバトンを受け取った荒木田進謙、グレコローマンの鈴木克彰、新庄寛和、みんな国内でかなりの強さを誇ったものの、世界の厚い壁にはね返され、オリンピックに舞台に立つことはできなかった。

 現在のグレコローマン130㎏級の第一人者、園田新(ALSOL)に取材をした際、世界選手権に向けて目標を問うと、「まずは1勝です」と悔しそうに答えた姿が忘れられない。全日本選手権を6連覇、国内敵なしの園田にして、5度の世界選手権でいまだ白星はなし。園田の生の声を耳にして、最重量級という世界の厳しさをあらためて思い知らされた気分だった。

 スポーツライターとして、私はプロボクシングをメーンフィールドに取材活動をしている。こちらもレスリングと同じく、日本人世界チャンピオンの圧倒的多数が軽量級の選手だ。最近はかなり変わってきたとはいえ、ひと昔前の中量級以上の選手は、日本や東洋太平洋タイトルを獲ってしまうと、「この先はもうない」というムードだった。世界チャンピオンなんてとてもじゃないけど無理、ということである(そもそも世界挑戦すらできない)。

不可能を可能にするのがスポーツの醍醐味

2018年世界選手権の男子フリースタイル125kg級で東アジア選手初の決勝進出を果たしたデン・チウェイ(鄧志偉=中国)。日本選手も、いつか続きたい!

 私は、ボクシングにおいて世界的に層の厚いスターぞろいの中量級で日本人チャンピオンが生まれてほしいとずっと思っている。そういう意味で、2012年ロンドン・オリンピック金メダリストの村田諒太がプロのミドル級で世界チャンピオンに輝いたのはうれしかった。そしていつの日か、ヘビー級で日本人世界チャンピオンが生まれてほしい。それが私の夢だ。

 レスリングにおいては、カレリンのような選手と日本人選手がオリンピックの決勝で争う日を夢見ている。実現が難しければ難しいほど、夢は大きい。不可能を可能にするのはスポーツの醍醐味とも言えるだろう。

 私たちの日常の取材は、メダル獲得の可能性が高い軽量級選手や女子選手にいきがちだ。夢のスケールがけた違いの重量級の魅力も、しっかり伝えていきたい。

渋谷淳(しぶや・じゅん)1971年生まれ、東京都出身。河北新報社勤務をへて、今はなき内外タイムス特派員として2004年アテネ・オリンピックを取材。以降はフリーランスのライターとしてプロボクシングをメーンに、レスリング、柔道、バスケットボール、ラグビーなどを取材している。

担当記者が見たレスリング

■8月29日: 女子最強軍団の強さの根源は「マナーの向上」だった!…来住哲司(毎日新聞)
■8月22日: スイミングクラブや体操教室ぐらい身近な競技に!…金島淑華(朝日新聞)
■8月15日:台頭する都市型スポーツ! レスリングの危機は去っていない…船原勝英(元共同通信)
■8月8日: マイナーからメジャーへ変貌! 選手はもっと主張していい…山口大介(日本経済新聞)
■8月1日:今はオンライン取材だが、いつの日か発信力を取り戻してほしい…牧慈(サンケイスポーツ)
■7月25日:IOCに「認められる」のではなく、「認めさせる」の姿勢と誇りを…森田景史(産経新聞)
■7月19日:弱さを露わにした吉田沙保里、素直な感情と言葉の宝庫だったレスリング界…首藤昌史(スポーツニッポン)
■7月11日:敗者の気持ちを知り、一回り大きくなった吉田沙保里…高橋広史(中日新聞)
■7月4日: “人と向き合う”からこそ感じられた取材空間、選手との距離を縮めた…菅家大輔(日刊スポーツ・元記者)
■6月27日: パリは燃えているか? 歓喜のアニマル浜口さんが夜空に絶叫した夜…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月20日: 父と娘の感動の肩車! 朝刊スポーツ4紙の一面を飾った名シーンの裏側…高木圭介(元東京スポーツ)
■6月13日: レスリングは「奇抜さ」の宝庫、他競技では見られない発想を…渡辺学(東京スポーツ)
■6月5日: レスラーの強さは「フィジカル」と「負けず嫌い」、もっと冒険していい…森本任(共同通信)
■5月30日: 減量より筋力アップ! 格闘技の本質は“強さの追求”だ…波多江航(読売新聞)
■5月23日: 男子復活に必要なものは、1988年ソウル大会の“あの熱さ”…久浦真一(スポーツ報知)
■5月16日: 語学を勉強し、人脈をつくり、国際感覚のある人材の育成を期待…柴田真宏(元朝日新聞)
■5月9日: もっと増やせないか、「フォール勝ち」…粟野仁雄(ジャーナリスト)
■5月2日: 閉会式で見たい、困難を乗り越えた選手の満面の笑みを!…矢内由美子(フリーライター)

 






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