「1日24時間、レスリングを考えていた」というのは、決して大袈裟な表現ではありません。お風呂に入るときも、寝ているときも、「いかに疲れをとって、次の日しっかり練習できるか?」を意識していました。
食事を摂るときも、「身体を作るためにいかに必要な栄養が摂れるか?」「タンパク質の量は足りているか?」「身体を動かすエネルギーは摂れているか?」「調子が崩れないように野菜類は足りているか?」など意識して食事メニューを選んでいました。
逆に体重を落とすときは、「いかに筋肉、体力を落とさず体脂肪を落とすか」ということを考え、低脂肪高タンパク質で食事メニューを決めていましたね。美味しいもの、食べたいもので選ぶのではなく、身体に必要な栄養を考えて食べました。
他に、プロテインやビタミン剤などのサプリメントも積極的に摂っていたので、エンゲル係数(消費支出に占める飲食費の割合)はかなり高かったです(笑)。身体作りや減量についてはめちゃくちゃ得意になりましたし、自分の大きな武器でした。
今では何かしらサプリメントを摂るのは当たりまえで、摂らない選手のほうが少ないと思いますが、私たちの時代は、プロテインなどのサプリメントを摂っている選手は非常に少数派でした。筋肉作りのためにプロテインを飲もうものなら周囲からマニア扱いされました。私は大学1年からプロテインを毎日飲んでいたので、「好きな食べ物=プロテイン」とからかわれたこともありました(笑)。
ちなみに、同級生でいつもプロテインを飲んでいたのは、私と、同じく周囲の空気を読まない川合達夫選手の2人だけでした。結果的に2人ともオリンピック2大会連続出場を果たしました。プロテインを飲んだから強くなったのではありません。強くなるためには、「あえて空気を読まず、勝つために必要なことに向かって突き進んでいくこと」が大事なことは言うまでもありませんね。
キツキツに1週間をすごしていたのではなく、肉体と精神を休ませるため日曜日はオフにしていました。その休日ですら、「月曜日からまたガンガン練習するための休日」を意識するわけです。しっかり睡眠を取り、気晴らしに出掛け、サウナに行った後に栄養のある食事をたくさん摂ったりして、リフレッシュしていました。こういった時間も大事ですし、強くなるためには必要です。
お酒も、大会がない時期は週に一度ぐらい、休みの前日に飲みに行くこともありました。あくまで気分転換をはかり、その後、練習でより追い込んでいくために精神面を安定させる目的なので、体調を崩すような飲み方はしませんでした。ここでも、しっかり身体を作る食事を摂りながら飲んでいました。お酒も、つき合い方次第で、決してマイナスになることはなく、ちゃんとプラスになりますね(笑)
本気で夢に向かっていった「1日24時間」でした。必要なことに全力で取り組んでいけば必ず近づいていくものだと実感しています。
ただ、幼少の頃からレスリングだけをやってしまうと、レスリング馬鹿になってしまい、選手生活を終えた後、路頭に迷ってしまいます。私の場合、両親が教育者という環境に育ったので、子供の頃から最低限の教養や勉強に取り組むことの重要性を、口酸っぱく教えられました。
進学高校に進んだので、中学生までにある程度の学力を身につけ、教養と常識を持つ基礎はできていたと思います。その後の勉強については散々な成績ですが(笑)、今では読書や新しい知識を学ぶのが大好きです。頭を使う、考える、学ぶといった基礎がレスリングにおいて生かされてきたと思いますし、10年前に一から自分のジムを立ち上げ、指導者だけでなく経営者としての自分につながっていると思います。
また、「空気を読まない」というのもちゃんと使い方があって、「空気を読めない」のと、「あえて空気を読まない」のとでは大きく違います。単に「空気を読めない」人間になってしまうと、社会性がなく、誰からも相手にされなくなってしまいます。
やらされるのではなく、自分の頭でしっかり練習計画を考え、管理ができ、追い込んで行くことは将来のセカンドキャリアにも生かされるはずです。
未来あるキッズ選手は、中学生まではレスリングと同じくらいの比重で勉強にも取り組んでください。「レスリングだけ」ではいけません。高校生になると、もちろん勉強もしないとなりませんが、とことんレスリングに打ち込む選手が多くなると思います。それでも、読書の習慣は身につけてください。それが、レスリング的にも人間的にも、大きく成長でき、その後の人生にも生きてくると思います。
最後になりますが、限界というのは絶対に自分で決めてはいけません。2021年、コロナウィルスに負けずに夢へ向かって突き進んで下さい!
2021年1月 永田克彦