(文=布施鋼治)
2月上旬、千葉県成田市のゴールドジム内にある格闘技ジム「ALLIANCE」成田道場。幼稚園年中から中学3年生まで13名が参加したキッズ・レスリング教室を見学させてもらった。高阪剛代表に「いつからレスリングを教えているのか?」と聞くと、古い資料を確認してから話し始めた。
「大学3年になった子が小学1年生のときからやっている。ということは、15年になりますかね」
高阪代表は1990年代後半、黎明期のUFCで活躍。MMA(総合格闘技)ファイターのパイオニアで、50歳になった今も現役を続けるベテランだ。なぜ、レスリングを教えようと思い立ったのか?
「ずっと子供のクラスをやりたいと思っていたんですよ。ずっとMMAをやってきて、そこにつながる道だったり、そうでなかったとしても格闘技に触れてもらいたいと思った。だったら何をしたらいいのかと考えたとき、体ごとぶつかるという意味でレスリングに行き着きました」
プロになる前は、専大で柔道に打ち込んだ。レスリングからプロレス入りした秋山準(本名・秋山潤)と同期だったという。
「大学1年のとき、(専大レスリング部から新日本プロレス入りした)中西学先輩は4年生でした。当時は柔道部の監督が『柔道だけではダメ』という方針で、大学1年の頃からレスリングの練習にも行かせてもらっていたんですよ」
レスリング部と柔道部の交流のある学校はあるが、当時はまだ珍しかった。高阪代表は「あのときはレスリングを理解するまでには至らなかった」と打ち明ける。「ただ、人と人が道衣を介してではなく、がっちり組み合うという経験をできたことは大きかった。あの時代がなければ、MMAに対しても躊躇(ちゅうちょ)していたかもしれない」
ALLIANCEは東京都港区と成田と二つの道場を拠点に活動中。どちらの道場でもキッズのクラスを設けている。すでに全国王者も輩出しているが、高阪代表は「レスリングをやろうとしている子は何かを持っている」と分析する。
「でも、出し方がわからない子も多い。だったら、どうやってやる気や才能を引っ張り出してあげるか。自分が小さい頃は指導者から厳しく『やれやれ』ばかりだったけど、今、子供を取り巻く環境はそうではない。些細なことでもいいので、何かきっかけを与えて上げたら、すごく伸びる子が多いと思う」
この日のクラスに参加していた松澤慧君(小学3年生)の話。「レスリングは3歳くらいからALLIANCEでやっています。お兄ちゃんが最初に始めていて、その姿が楽しそうに見えたので自分も始めました。去年は(コロナで)試合ができなかったけど、今年はしたい」
高阪代表も、コロナで大会が続々と中止や延期となる中で、キッズたちのモチベーションを維持させることに腐心する。「なぜレスリングをやっているのか。好きだから。楽しいから。友達と会えるから。もう一度原点に立ち返って、なおかつ練習ができているという状況をありがたく思わないといけないという話をよくしています」
総合の指導同様、キッズたちにも「前に出ろ」という基本指導方針を貫く。「相手の様子を見てレスリングをするのではなく、自分から攻める。それで失敗しても構わない。そのためにも体力とタックルはすごく大事ということを教えています」
ラクビーやアメリカンフットボールでも指導する高阪代表。キッズ・レスリングの基盤は、こうした異色の指導者にも支えられている。