(文=東京スポーツ新聞社・中村亜希子、撮影=矢吹建夫)
全日本選抜選手権最終日(5月30日)の男子フリースタイル97kg級で新王者が誕生した。石黒峻士(新日本プロレス職)が決勝で伊藤飛未来(日体大)を7―0で下して優勝。昨年末の全日本選手権覇者の赤熊猶弥(自衛隊)は出場しておらず、石黒が10月の世界選手権(ノルウェー)の代表を決めた。
「メンバー的にも勝たないといけないと思っていたので一安心。世界で勝てるレスラーになりたいので、しっかり調整し、メダルを取りたい」と初の大舞台に意欲を燃やした。
大会第2日には弟の隼士(日大)が男子フリースタイル86kg級で初優勝。2016年JOC杯や2018年全日本学生選手権などで実現した兄弟同時優勝を達成した。
石黒は「去年の全日本選手権では弟が優勝したのに、自分が勝てなくて…。うれしいです」と、兄弟そろってのビックタイトル獲得に笑顔を見せた。
今大会、新日本のレスリングチーム「TEAM NEW JAPAN(TNJ)」を率いる永田裕志監督は不在。米国遠征後の隔離期間が試合前日の29日までのため、大事を取って弟で2000年シドニー・オリンピック銀メダルの永田克彦氏(Wrestle Win代表)にセコンドを任せた。
克彦氏は今年に入ってから、石黒のフィジカルトレーナーも務めている。石黒は克彦氏の指導で「パワー負けは一切しなくなりました」とこれまでとの違いを実感。また、筋力だけではなく、体の使い方も学び「実戦に生かすことができた」と、効果は抜群だ。
克彦氏は「私も以前、闘魂クラブ(新日本のレスリング部門)にいた者。後輩のために、微力ながら協力したい。世界で闘うために、ただ体をでかくするだけではなく、それを使いこなせるようにお手伝いしたい。バケモノみたいなフィジカルをつけさせたいですね」と海外へ挑戦する石黒のサポートを約束した。
また、You tubeで試合を観戦し、大会終了後に会場外で石黒を迎えた永田監督も「よかった、よかった。一安心。これからも、いろんなことをやらせていきたい」とさらなる強化を誓った。
この日、第2セコンドには、長年同階級を引っ張ってきた同じ新日本プロレス所属の山口剛の姿があった。東京オリンピック世界最終予選に出場したが、出場枠獲得はならず。第一線を退くことを表明した。
山口は「(永田)監督や自分が見られなかった世界(オリンピック)に出る夢を、峻士がかなえてほしい」とエール。先輩からバトンを受け継ぎ、97kg級で世界を脅かすモンスターになる。