【2021年全国高校生グレコローマン選手権・特集】原動力は周囲への感謝の気持ち、元全日本グレコ王者と二人三脚で初の全国優勝…65kg級・長野壮志（愛媛・八幡浜工）

（文＝谷山美海、撮影＝矢吹建夫）

全国大会初の表彰台を優勝で飾った長野壮志（愛媛・八幡浜工）

　2021年全国高校生グレコローマン選手権の65kg級は長野壮志（愛媛・八幡浜工）が優勝。決勝では本名一晟（山梨・韮崎工）相手に3分39秒でテクニカルフォール勝ち。愛媛県勢としては4年連続での高校グレコローマン王者に輝いた。

　2019年の国民体育大会（少年）グレコローマン60kg級と今年の全国高校選抜大会（フリースタイル）65kg級ではともに５位。全国大会でのメダル獲得経験はなく、初の表彰台入りが悲願の全国初優勝となった。決勝後の取材では「優勝できてうれしいです。梅野（貴裕）先生の期待にしっかりと応えられてよかったです。厳しさと愛のある指導なので、ついていけば絶対に優勝を狙えると信じていました」と、自身初の全国優勝の喜びもそこそこに、繰り返し監督への感謝の思いを口にした。

　今年春から正式に八幡浜工高の指揮官に就任した梅野貴裕監督は、2016年の全日本選抜選手権・男子グレコローマン71kg級で優勝し、世界選手権に出場した実力者。長野は「いつもスパーリングの相手を思い切りやってくれて、試合本番でも力負けしない力がついてきていると思います。それでも、まだまだ監督にはかなわないです（笑）」と、今大会での優勝の要因に普段の質の高い練習を挙げる。

「押しが強く、馬力がずば抜けています」と梅野貴裕監督

　一方の梅野監督も「押しが強くて馬力がある。試合の実力とスパーリングだと、スパーリングの方が上ですね。普段は72〜73kgあって、その時の馬力はずば抜けています」と、長野のパワーに太鼓判。普段の練習はフリースタイル主体と言いつつも、「僕が楽しくやっているのもあってか、グレコローマンを教えているときの方が生徒たちも生き生きしている気がします（笑）」。

長野を鍛え、開花させた梅野貴裕監督

　中学2年生の夏、4歳から続けた柔道を兄が辞めたのを機にレスリングに転向した。興味があったという格闘技に挑戦するべく、松山クラブの門をたたいた。「柔道の投げを生かせるのが楽しくて。それもあって、グレコローマンの方が好きです」。元々得意な意識のあったグレコローマンの実力が、元全日本王者の指導下で開花した。

　実家から高校までは、車で片道３時間弱。レスリングに集中するため、チームでただ一人寮生活を送っている。「梅野先生が家を準備してくださって、食事は2年生のときまでは先生の奥さんが、今はお母さんが、朝は届けてくれて、夜は練習から帰ったら準備してくれています。家族総出で面倒を見てもらって、本当に感謝しています。優勝できて良かったです」

「優勝できたのはみんなのおかげ。感謝の気持ちが原動力です」

　取材中に何度も周囲への感謝の言葉を口にした長野は、梅野監督の指導のモットーである「礼儀」と「愛情」を体現していると言えよう。同監督は「こういう人間になれよって、みんなの見本にしたいぐらいですよ。人間力が高くて、学校でも評判がいいんです」と目を細める。メッセージアプリを開き、クラス担任、校長・教頭、レスリング部OB、自身の両親と、大量の祝福メッセージの存在を明かしてくれた。

国体でも優勝を目指す長野壮志

　長野が続ける。「今回優勝できたのはチームと梅野監督、学校の先生、両親に監督のご家族、みんなのおかげです。感謝の気持ちが原動力です。特に監督のことはすごいなと思っていて、自分も監督のような人間になりたいです。今回やっと優勝できましたが、残り半年結果で恩返しできるように。国体ではしっかり優勝して、天皇杯でもしっかり自分のレスリングをして勝負したいです」。

　ひた向きに誠実に――。リスペクトし合う師弟二人三脚で、残りの高校レスリング生活を駆け抜けろ――。