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2021.07.23

【2021年東京オリンピックにかける(10)】父の一言で復帰を決意、日本女子の歴史を塗り替えるか…女子76kg級・皆川博恵(クリナップ)

 

(文=スポーツライター、矢内由美子)

Zoom会見で試合に向けての気持ちを話した皆川博恵

 33歳にして初めてオリンピックのマットに立つ。しかも、33歳にしてなお、右肩上がりの成長グラフを描いている。オリンピックの最重量級で日本初の金メダルを狙う女子76kg級の皆川博恵(クリナップ)だ。

 「100%の準備をして、本番の舞台ではそれを出し惜しみすることなく、全部出し切れたらいい」

 本番を目前に、気負うことなく頂点を見据えている。

 1987年、京都に生まれ、レスリング経験者であり高校教師の父・秀知さんの指導の下、物心がつく前からレスリングに親しんできた。10代の頃はレスリング一辺倒ではなく、中学時代は陸上部に所属。高校時代はニュージーランドに語学留学もした。それでもカデットの部で全国優勝するなど才能を発揮し、2012年から世界選手権に出場するようになった。

 だが、世界に出ると、この階級には身長170cmを超える選手が目白押し。身長162cmの皆川はパワーでもリーチでも分が悪く、上位に割って入ることができなかった。2012年は初戦敗退の11位、2013年は9位、2014年は7位。少しずつ順位を上げたが、2015年の世界選手権はけがで欠場し、リオデジャネイロ・オリンピックは代表入りを逃した。

父が使えなかった“ラスベガス行き”のパスポート

 支援してくれた人へのけじめとして2016年の国内大会に出た後は、「引退しよう」と考えていた皆川が、再びマットに上がろうと思ったのは、父の何気ない一言があったからだと言う。

2019年世界選手権決勝、アデライン・グレイ(米国)にタックルを仕掛ける皆川博恵

 両親は2015年の世界選手権を見るために初めてパスポートを作ったが、皆川の欠場により使わずじまい。しばらくたった頃、せっかくパスポートを作ったのだから家族でハワイにでも行こうという話になったとき、父がポロっと言った。

 「このパスポートは試合を見に行くために作ったんだけどなあ…」

 子供の頃から決してレスリングを強要することのなかった父がもらした本音。その言葉が皆川の胸に引っかかった。父から「ドラマの台詞だ」と聞いた「一番いいのは一生懸命やって勝つことで、次にいいのは一生懸命に頑張って負けること」という言葉にも背中を押された。

 「もう一回、一生懸命にやってみて、それで負けてもいいかなと、そのときに思いました」(皆川)

 周囲の励ましやアドバイスもあり、気持ちを新たに再び取り組むようになってからは、成績がどんどん上向いていった。2017年の世界選手権で初めて銅メダルを獲得(当時は75kg級)。翌2018年は現在と同じ76kg級で銅メダル。6度目の世界選手権となった2019年は初めて決勝に進み、決勝でアデライン・グレイ(米国)に2-4で敗れたものの銀メダルを手にし、東京オリンピックの代表に内定した。

2017年世界選手権の銅メダルで「殻を破れた」

 皆川が「分岐点だった」と考えているのは、2017年の銅メダルだ。「それまで一度もメダルを取ったことがなく、世界選手権というものに壁を感じていた。初めてメダルを取って達成感などを味わうことができ、殻(から)を破れた」と言う。

アデライン・グレイ(米国=左)とエリカ・ウィーブ(カナダ)を抑え、表彰台の一番高いところに上がったシーンの再現なるか=2013年NYACオープン国際大会(チーム提供)

 新型コロナウイルス感染症拡大でオリンピックが1年延びたことをきっかけに、昨年6月に古傷の右ひざを手術。日常生活に支障をきたすほどだった痛みが今はなくなり、しっかりと練習ができるようになった。

 コロナ禍中は、2017年に結婚した元レスリング選手の夫・拓也さんを相手に、自宅の庭で軽いスパーリングをやり、コンディションを維持した。さらに、ここ数年続けている筋肉トレーニングで筋力がアップし、外国勢に簡単にパワー負けすることもないと胸を張る。

 「1年前と比べて力がついた感覚がある」と言う皆川が、女子レスリング界の歴史を塗り替える。

 







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