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2021.07.27

【2021年東京オリンピックにかける(12)完】「忍先輩、見ていてくれ」。炸裂するか“人間風車”…男子グレコローマン60kg級・文田健一郎(ミキハウス)

 

(文=ジャーナリスト、粟野仁雄)

Zoom会見で金メダルへの思いを話した文田健一郎(ミキハウス)

 涙もろい男のようだ。男子グレコローマン60kg級代表の文田健一郎(ミキハウス)。2019年9月、オリンピック切符を賭けたカザフスタンの世界選手権。前年の世界王者セルゲイ・エメリン(ロシア)に逆転勝ちで優勝し、「父は喜んでくれると思う」「忍先輩がいてくれたからこそ…」などと話すとき、涙があふれていた。

 父親の敏郎さん(59歳)は山梨県の韮崎工業高校でレスリング部監督を務める。同県出身の文田は中学生の頃、父に2004年アテネ・オリンピックのビデオを見せられてグレコローマンの投げ技の魅力にはまった。

 「忍先輩」とは、2016年リオデジャネイロ大会銀メダリストで日体大の2年上だった太田忍(27歳)。対戦成績は拮抗し、覇を競った。オリンピックを目指す最後の闘いで優勝を逃した太田は昨年、総合格闘技へ転向した。

 文田は「有言実行型アスリート」の典型だ。ライバルの太田とは、米国のヘビー級名ボクサー、モハメド・アリのように、試合前、互いに挑発するような言質もはき合った。試合での「チャレンジ」(判定への不服申し立て)では、会場のビデオスクリーンを一瞥(いちべつ)するや、マット上をのっしのっし歩き回り、自らの胸をたたいて「オレが勝っているだろ」とばかり審判にアピールする。

25歳を過ぎてからも筋力がアップ

 立ったまま後方に背中を反らせて床に手がつくという驚くべき柔軟な身体から「猫レスラー」の異名を持ち、「猫好き」でも知られる。背骨、肩関節、筋肉の柔軟性と、強靭な背筋力を生かした必殺技が豪快な「そり投げ」だ。   

昭和のプロレス・ファンには“人間風車”に見える? パワーとブリッジワークを武器に金メダルを目指す!

 向き合った相手の両脇から差し込んだ両手を相手の背中で組み、相手を頭越しに後方へ投げる大技。筆者が中学生時代にテレビ見ていた「国際プロレス」で人気者だったビル・ロビンソンという英国人レスラーの「人間風車」を思い出す(古すぎて文田は知らなかった)。

 プロレスなら、相手がとんでくれるが、レスリングの闘いではそうはいかない。相手の身動きが取れないまでにがっちり固めた上、自らの体も弓のように大きくそらないとうまく投げられない。

 25歳を過ぎてからも筋力がアップした。「55kgのおもりをぶら下げて懸垂ができた。引きつける筋力が強くなった。嫌がる相手が下がるので前に出るのにプラスになる」とか。

 代表内定後も、昨年12月の全日本選手権には代表で唯一出場し、積極的に国際試合にも出ようとした。6月のポーランドでの大会にも「強烈な投げ技を見せ、スタンドの強さを見せ、他国の選手に『フミタは怖いぞ』と思わせたい」とエントリーしたが、ワクチン接種後の体調不良で出場を断念した。

 「人に見られること」も力にする文田は、東京オリンピックの無観客について「身近な人とか多く見に来てくれるはずだったのに」と残念がる。

「そり投げにこだわりたい。グレコローマンの魅力は投げ技」

 常日頃から、グレコローマンの魅力をアピールしてきた。タックルなどで相手の下半身を攻撃できないグレコローマンでは、組み合っての豪快な力技が見られる反面、こう着すると、ただの押し合いや、勝負のつかない腕相撲のようになる。フリースタイルでは機敏に動き回って勝機を見出す日本人選手にとって、グレコローマンは腕力が弱いため、ハンディとなる。

グレコローマンの魅力のひとつは“そり投げ”。オリンピックのマットで炸裂するか

 男子グレコローマンの松本慎吾強化委員長(日体大教)は「外国人選手がよくやる俵返しへの対策で、俵返しがうまい一階級上の下山田培選手(警視庁)に来てもらって文田にデフェンス練習させている。技の幅を持たせるため首投げや巻き投げなども練習しています」と、オリンピック直前の練習を話した。

 文田は、それでも「そり投げにこだわりたい。グレコローマンの魅力は投げ技。僕のレスリングはそり投げとともにある」と言う。

 太田忍は時に母校に現れて文田のスパーリング相手になってくれている。文田は「技の切れも全然衰えていなかった。基礎を教えてくれたのは父と松本先生ですが、世界での闘い方は、ほとんど忍先輩からなんです」と喜び、「2017年の世界選手権で優勝したのに、その年の暮れの全日本選手権で忍先輩に負けたことが(自分の成長に)大きかった」と振り返る。

 「有言実行型」の文田。幕張メッセでの金メダルに万感の想いを込めた「男の涙」を再び見たいものだ。







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