2021.08.04

【2021年東京オリンピック・特集】「相手の研究を上回れなかった」…4年ぶりの銀メダルに終わった文田健一郎（ミキハウス）

（文＝布施鋼治）

　男子グレコローマンで37年ぶりの金メダルならず。8月2日行なわれた東京オリンピック・男子グレコローマン60㎏級決勝で、文田健一郎（ミキハウス)はルイス・アルベルト・オルタ・サンチェス（キューバ）に1－5で敗れ、惜しくも銀メダルに終わった。

金メダルをかけた闘いがスタート

　「本当に久しぶりの銀メダル。（首から）かけてみて、あらためて金の方がいいなと思いました」
　
　本人の記憶も定かではない、国際大会での銀メダル獲得は2017年グランマ＆セーロ・ペラド国際大会（キューバ）以来、４年ぶりだった。

　決勝で文田の夢をつぶしたオルタ・サンチェスは、昨年3月のパンアメリカン予選で優勝して東京オリンピック出場を決めた。２年前のパンアメリカン大会では３位に入賞しているが、今大会では全くの無印で、過去に文田との対戦経験もなかった。

　しかしながら、準々決勝では第２シードで文田の対抗と目されていたセルゲイ・エメリン（ROC＝ロシア・オリンピック委員会)を撃破。続く準決勝では2019年欧州選手権優勝のビクトル・シオバヌ（モルドバ）を破っての決勝進出だった。

　奇しくも2016年リオデジャネイロ・オリンピックの男子グレコローマン59㎏級決勝を太田忍と争い、優勝したのもキューバのイスマエル・ボレロ・モリーナだった。8月1日、デモンストレーション披露のため、会場の幕張メッセを訪れた太田は決勝進出を決めた文田に「キューバはちょっと怖いな」と冗談交じりに語っていたが、はからずもそれは現実のものとなってしまった。

徹底的な文田対策が感じられたオルタ・サンチェス

　オリンピックでの成績で先輩越えを狙っていた文田は「（結果として）忍先輩を超えられなかった」と振り返る。「金メダルをとって先輩に喜んでもらいたかったけど、本当に不甲斐ない」

第1ピリオド、グラウンドで痛恨の2失点

　敗因はオルタ・サンチェスが徹底した文田対策を講じてきたことか。過去２度も世界選手権を制していることで、文田へのマークが厳しくなることは想像できたが、キューバ側の対策は文田陣営の予想を遥かに超えていた。オルタ・サンチェスは右手を左脇に差しながら、左手で文田の手首をつかんで文田に思うような組み手をさせない。

　場外ポイントで１点を先取すると、パッシビティでさらに1点。そしてパーテールポジションからローリングで２点を加え、第１ピリオドを4－0で折り返した。

　第２ピリオド、あとがない文田はパッシビティで１点を返し、パーテールポジションへ。ここでローリングが決まりかけたところでクラッチを切られ、痛恨のノーポイント。ここが勝負の分かれ目となったか。その流れの中でもつれたところで、オルタ・サンチェスは場外ポイントでダメ押しの1点を加えた。

　これで5－1。文田はクラッチを組んで反撃の糸口をつかみたかったが、オルタ・サンチェスは十分なクラッチを組ませることは一度もなかった。