(文=布施鋼治/撮影=矢吹建夫)
2年ぶりに開催されることになったインターハイ。全国高体連レスリング専門部の千葉裕司部長に開会式を終えたときの気持ちを聞くと、「私の気持ちより、選手が待ち望んでいた大会です。その気持ちに応えられてよかったと思います」と胸をなで下ろした。
新型コロナウイルス感染拡大により、群馬・館林市で予定された昨年の大会は、史上初めての中止となった。当時、理事長だった千葉部長は「慰めの言葉が見つからなかった」と振り返る。「特に3年生にとっては、もう帰ってこない1年だったわけですからね」
今回も、開催直前に全日本学生連盟が全日本学生選手権の中止を決めた。感染者拡大の勢いも衰える気配がないため、主催者側は気が休まる間がなかったと言う。
「なんとかやらせてもらえれば、という思いだけでした。本当に(受け入れ先の)福井県の方々には頑張っていただき開催にこぎつけることができました。感謝の一言です」
そうした中、直前になって学校対抗戦では3校が棄権するなど、いつもとは違う雰囲気での開催になったことは否めない。千葉部長は「優勝候補のチームもありました。規定があるので、それに沿う形で3校は勇気のある辞退をしてくれました」と受け止めている。
「ルール違反を犯してまで出場を強行し、何かあれば、レスリングという競技そのものの信用がなくなってしまいます。結果も大事だけど、棄権となった3校の選手の分まで出場選手たちには思う存分闘ってもらいたい。それだけで満足です」
先の東京オリンピックでの日本代表の活躍を受け、開会式で千葉部長は「オリンピックに続け」と選手たちを叱咤激励した。「やはり金メダルを取った選手のほとんどはこのインターハイに参加している。乙黒(拓斗)君なんか3連覇を達成していますからね」
千葉部長は強い選手の刺激になるばかりでなく、今大会の開催を起爆剤に裾野が広がってもらえたらと願う。「そうなれば、高校レスリング全体が盛り上がることになりますからね」
思い出の夏だけでは終わらない。