【2021年全日本学生選手権・特集】ラスト16秒での逆転優勝！ エネルギーは7月の黒星…男子グレコローマン55kg級・荒木瑞生（九州共立大）

　初の山口開催となった2021年全日本学生選手権。最後に行われた男子グレコローマン55kg級決勝で、終了間際に大逆転劇が演じられた。劇的フィナーレの主役は、2週間前にこの会場で行われた西日本学生選手権の同級を制した荒木瑞生（九州共立大）。6月の東日本学生春季選手権の覇者、塩崎泰隆（日体大）をラスト16秒からの攻撃で破り、栄冠を引き寄せた。

終了間際の逆転優勝に、藤山慎平監督に駆け寄った荒木瑞生（九州共立大）＝撮影・保高幸子

　同大学として初の学生チャンピオン。優勝が決まると、藤山慎平監督のもとに駆け寄って抱きつき、心の底からあふれ出る喜びを表した。無観客のため出場選手とスタッフのみの会場だったが、大歓声があがったと錯覚させられるような熱気がマットの上に満ちあふれていた。

　「優勝候補（塩谷優＝拓大、松井謙＝日体大）が出ていない中での優勝ですが、とてもうれしいです。監督、高校の先生、両親、周囲で応援してくれた人…、皆さんに恩返しができました」。

　試合は荒木が4－6とリードされた。必死の攻めもはね返されてカウントダウンが始まるかと思われたときに動いた。ジャンプするようなトリッキーなタックルで塩崎の背後に回り、場外に押し出すような形でテークダウンを奪った。場外に出してしまっては、１点差に縮まるだけで勝つことはできない。しかし、テークダウンによって貴重な2点をゲット！ これによって、勝利をつかんだ。

「カッコいい逆転ではなかった」が、あきらめなかった

　「カッコいい逆転ではなかったですね。でも、あきらめないで闘うという、今までやってきたことを出せたことがよかったです」

逆転につながった“ジャンピング・タックル”＝撮影・保高幸子

　自分のレスリングを見つめ直すきっかけとなったのは、7月の西日本学生新人戦で年下の選手に負けて優勝を逃したこと。グレコローマンの高校二冠王者として九州共立大に進み、昨年は1年生にして新人戦を制覇。全日本大学グレコローマン選手権でも3位に入賞。同大学の期待の一番手だっただけに、年下選手への敗戦はショックだった。

　「あのときは、だらけていた部分がありましたね」。いつしか心に忍び込んだ隙・油断・思い上がり…。佐賀・鳥栖工高時代の恩師の小柴健二監督も心配してアドバイスをくれた。それとともに、「レスリングが好きなんですね」と振り返り、周囲の励ましのみならず自分の心の内からも新たなエネルギーが湧いてきた。

　それらの要因でつまずきを乗り越えられ、西日本学生選手権の優勝、そして今回の栄冠につながったようだ。九州の大学の優勝は、1998年グレコローマン58kg級の葭田隆夫（福岡大）以来、23年ぶり。「（九州だからといって）勝てないことはない。しっかりやっていけば、絶対に勝てる」と語気を強めた。

全日本選手権でアジア王者と世界王者に挑戦！

　今年、この階級の日本選手はアジア選手権と世界選手権の両方を制覇しており、国内の闘いがハイレベルな階級だ。次の勝負となる全日本選手権では簡単に勝たせてくれまい。しかし、「この階級でやっている以上、勝たないとならないと思っています。自分なら、アジアも世界も勝てなかったと思う。まず塩谷選手や松井選手に勝てるよう頑張りたい」と、全日本王者を視野に入れ、さらなる目標を定める。

九州共立大初の学生王者の荒木と藤山監督

　フリースタイルもこなしている選手なので、10日もしないうちに全日本大学選手権（栃木・足利市）があり、今月末には西日本学生秋季リーグ戦（大阪）。休む間もないが、「ひとつひとつ勝っていきたい」と話し、この勢いをもって年末まで駆け抜ける腹積もりだ。

　昨年の大学王者誕生に続いて学生王者を育てた藤山監督は「感心しました。飛び道具を持っている選手なので、最後まであきらめずに見ていましたが、本当にやってくれました」と、最後のトリッキーな胴タックルを振り返る。塩谷、松井がいない中での優勝であっても「優勝は優勝。評価したいと思います」と言う。

　本人と申し合わせたかのように口にしたのが、新人戦での黒星。「（それまでは）本気度が足りなかった。負けたことで、逆にチャンスと思った」とのことで、気持ちを入れ替えたことが優勝の最大の要因だったと振り返る。「大学でもチャンピオンになろう」とスカウトした選手。「塩谷、松井両選手がいても勝てる選手に育てていきたい」と期待した。