(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
東日本学生秋季選手権の第2日(11月24日・駒沢球技場)。大学入学後に競技に取り組んだ選手などが対象となる新人戦フリースタイルBには、東大から二人の留学生が出場した。79㎏級のカー・アーネスト航大と+79㎏級の蘇浚惟(ソー・ジュンウェイ)だ。
ともに準決勝では豪快な勝ちっぷりを見せたが、決勝では涙をのんだ。それでも、試合後は落ち込んでいる様子は微塵もなかった。「最後は負けたけど、楽しかった」(蘇)「次は一番上(優勝)まで行きたい」(アーネスト)
二人ともレスリングを心の底から楽しんでいる様子。学生レスリングという視点から見れば、こういう競技との接し方があってもいい。驚いたことに、スタートはともに東大に留学してからだという。シンガポール人の蘇は「母国では陸上競技をやっていました」と話す。「レスリングをやり始めた理由は、自分の力を最大限に使ってみたかったから。レスリングには、いろいろな技術がある。特に相手を投げるところが面白い」
ジャマイカ人の父と日本人の母を持つアーネストは、学生寮で蘇の隣部屋だったことが縁でシングレットを着るようになったという。「練習を見学しに行ったら、楽しいことが分かったので入部することにしました」
キャリアは蘇が2年、アーネストに至っては8カ月に過ぎない。小中学校時代に全国王者の実績を持つ東大レスリング部の有川将史主将(関連記事)は「コロナの影響で、昨年度は新入部員がゼロでした。来年のリーグ戦には何とか人数を揃えて参加したいと思います。」と苦しい台所事情を明かす。
「部員はレスリング未経験の人ばかりです。そのため、未経験の素人でも基礎からレスリングを効率的に学べる『東大式レスリング習得法』を開発しました。現在進行形で活用しています」
アーネストのスピーディーで切れ味のあるタックルは、関係者から「キャリアは浅いけど、身体能力の高い選手」という評価を受けていた。「東大式レスリング習得法」の賜物だったのか。
一方、三つ編みヘアスタイルの蘇は、出場選手の中でもひと際目立っていたが、その理由がふるっている。「来日してから、散髪代がもったいなくて、ずっと伸ばしているだけです」(微笑)
ふたりとも大学では国際環境科学を専攻している。「社会人としてのファーストキャリアは、日本で勝負したい」(アーネスト)
近い将来、日本で出会ったレスリングのエッセンスを国際社会で活かすことができるか。