(文=東京スポーツ新聞社・中村亜希子/撮影=矢吹建夫)
東京オリンピックのメダリストは不在だった2021年全日本選手権。その分、注目された世界選手権メダリスト対決の女子57kg級決勝は、非オリンピック階級の55kg級世界女王・櫻井つぐみ(育英大)が、オリンピック階級の57kg級世界3位・南條早映(至学館大)を5-2で下して優勝。2階級制覇を達成した。
1-2でリードを許し、迎えた試合終了間際。あきらめずに圧力をかけ、腕取りで攻めた櫻井にチャンスがやってきた。南條がバランスを崩したすきを逃さず、足を取って倒し、4点をゲット。残り約2秒で大逆転に成功した。櫻井は「挑戦者として臨んだ中で、優勝という目標が達成できたのは少し成長したかなと思えた」と、控えめに喜んだ。
初挑戦で優勝した世界選手権の舞台で得たものは大きかった。「自分のレスリングが世界でも通用したので、自信になった。オリンピックの夢へ近づけたと思うので、ここで満足せず、練習を続けたい」。世界で勝てる手ごたえを感じつつ、次の夢の実現へ、舵を切った。
「自分の目標はパリ・オリンピックで優勝すること」。世界選手権の後、すぐさまオリンピック階級への変更を決めた。上げるか、下げるか。「どちらも強い選手がいる階級。自分の体のことを考え、2kg下げるよりは2kg上げたほうがいいと思った」。
選んだのは世界3位の南條がいて、そして東京オリンピック金メダリストの川井梨紗子(サントリーグループ・ジャパンビバレッジ)が女王に君臨する階級。今回、南條に勝利したが、来年6月の全日本選抜選手権では、南條がリベンジを狙い、川井が出場する可能性もある。
「(川井は)ずっと世界で勝っている、自分より上の選手。やってみないと分からないが、最終的には勝たないといけない。しっかり勝てるよう、頑張りたい」と覚悟を決めた。
今後の課題として、得点力アップを挙げる。「もっと、点数が取れるレスリングがしたい。タックルが日本女子の強みだが、自分はタックルに入りたくても、怖くて入れないことがある」。課題克服へ、所属の育英大では、2012年ロンドン・オリンピック男子グレコローマン銅メダリストの松本隆太郎・男子監督からも指導を受ける。
「たくさん技術を持っている。組み手がうまい。私は得意なのが腕取りですが、取り切れないときがあるので、アドバイスしていただいている。少しずつよくなっています」と、男子の世界トップの技術も吸収している。
激戦の57kg級で勝ち抜くためには、技に加え、精神的な強さも求められる。「最後まで絶対に勝つ、という気持ちで闘えるのが自分の強み」と、まっすぐ前を見て話した。パリへの切符を虎視眈々(こしたんたん)と狙う。