(文=布施鋼治 / 撮影=矢吹建夫)
「世界選手権もあったけど、それからインカレ(全日本学生選手権)を経ての全日本選手権。ここでしっかり優勝することを目標にやってきたので、とりあえず良かったです」
2021年全日本選手権の第2日、女子65㎏級は森川美和(日体大)が優勝し、一昨年の68㎏級、昨年の65㎏級に続き大会3連覇を果たした。
決勝は高校の先輩である源平彩南(アイシン)と激突。源平は、以前と比べると見違えるほど筋肉質となり、新人時代のマイク・タイソンのように上半身を左右に大きく振りながら突進してきた。森川はがぶって振って場外に押し出し、潜って両足タックルを決めるなどのテクニックを駆使し、10-0のテクニカルフォール勝ち。源平の突進をうまくさばいた格好だ。
「源平選手には今まで一度も勝ったことがないので、私にとっては強敵でした。でも、絶対に勝ちたいという気持ちで、どんどん攻めていこうと思っていました」
セコンドには、大会終了後に日本代表の精神的サポートを担うアントラージュコーチの就任が発表された伊調馨(ALSOK)が就き、森川に「相手が何をして来るというより、自分のレスリングをしっかりするように」というアドバイスを投げかけてくれたという。
「それで、自分もしっかりやり切ろうと思いました」(森川)
今年10月に初めてシニアの世界選手権に出場したが、決勝で世界ジュニア・チャンピオンのイリナ・リンガシ(モルドバ)と接戦の末、6-8で敗れて銀メダルに終わった。森川は反省を口にする。
「世界選手権では4点というビッグポイントを取られ、相手が粘り腰だったから、なかなかポイントを取り切れなかった。体力的にも技術的にも、自分で焦ってしまう場面が多々あった。世界で一番になるのはそんなに簡単なことではない」
帰国後は2週間の隔離期間を経てインカレに臨んだ。「隔離が終わってから10日間の調整で出た大会だったので本調子とはいえなかったけど、(それなりに)仕上げて優勝することができました」
それから約6週間のインターバルで臨んだ今大会は、気持ちを切り換えることができたと振り返る。「世界選手権で、自分にはまだまだ足りないものがあると思ったけど、コーチ陣からいろいろなアドバイスをいただくことができた。その言葉に刺激をもらったので、世界選手権で得た課題や、今後自分が何をやるべきか考えながら練習していました」
来年春には日体大を卒業して社会人レスラーとなるが、すでに青写真はできている。「全日本選抜選手権は65㎏級で優勝して、日本代表として世界選手権でも優勝する。そして来年の全日本選手権では(オリンピック階級である)68㎏級に階級を上げ、パリ・オリンピックにつなげたい」
やるべきことは分かっている。目的意識を強く抱いて、世界の壁をぶち破れ。