日本レスリング協会公式サイト
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2022.07.06

【特集】小学生の全国大会廃止の流れが出てきたスポーツ界…全国少年少女レスリング連盟・梅原龍一会長に聞く

 

 全日本柔道連盟(全柔連)が今年3月、「心身の発達途上にあり、事理弁別(物事の判断)の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは好ましくないものと考えます」として、小学生の全国大会を廃止することを発表した。室伏広治・スポーツ庁長官が「(成長の)早い段階から全国大会をやる意義があるのか、と個人的に思う」と廃止支持の意見を述べ、日本スポーツ協会もスポーツ少年団(軟式野球、剣道、バレーボール、サッカー、ホッケー)の全国大会の中止を視野に入れて見直しする方針を示すなど、多くの競技に波及している。

 全国少年少女レスリング連盟の梅原龍一会長に、レスリングの全国少年少女選手権の存続、あり方について聞いた。


柔道とレスリングでは歴史や競技人口のバックボーンが違う

――全柔連が全国大会の中止を決め、発表しました。同じ格闘技としてどんな感想をお持ちになりましたか?

梅原 連盟事務局からメールをいただき、そのニュースを知りました。記事を読みまして、「柔道は、そういう判断をしたんだ」という印象を持っただけで、それ以上の感想はなかったです。

少年少女レスリングの今後を話す梅原龍一・全国少年少女連盟会長=撮影・矢吹建夫

――レスリングではこうする、といった考えは浮かびましたでしょうか。

梅原 こうした出来事があった以上、連盟として意思統一しておく必要は感じました。すぐ副理事長以上の常任理事会を招集し、話し合いました。レスリングでは引き続きやっていく、という方針を決めました。

――全柔連では約10年も前から問題点が理事会で報告されていたそうで、この1、2年で議論が本格化。今年1月、賛成が大多数で大会の廃止が正式に決まったそうです。レスリングでは、全国大会廃止という議論はあったのでしょうか。

梅原 それはなかったです。柔道とレスリングではバックボーンが違うと思います。柔道は長い歴史があって、競技人口が多く、地方にも力のある人が大勢いて組織がしっかりしている。成熟している競技団体です。少年少女レスリングは現在でも競技人口が6000~7000人。これからもっと普及をしなければならない、という状況で現在まで来ています。柔道の判断とレスリングの判断が違っても、おかしくはないと思います。

保護者や指導者の罵声は絶対に許さない姿勢を続ける

――全柔連の山下泰裕会長は「全体的には勝利志向が強すぎる。子どもたちには伸び伸びと柔道をやって、柔道を好きになってもらいたい。今回の廃止の決定が、その第一歩になってほしい」と話しています。選手としても、指導者・リーダーとしても、実績のある方の発言なので、スポーツ界に影響は大きいでしょう。

梅原 今も話した通り、柔道とレスリングでは状況が違います。自分たちの道を確実に歩いて行こう、というのが連盟の方針です。

7月29~31日に全国大会が開催される東京・代々木競技場第1体育館。同所での開催は2016年以来

――レスリングの場合、キッズ・レスリングの振興によって、競技人口の増加があったと思います。けがや燃え尽き症候群などマイナス部分もあったかもしれませんが、現在まではいい形で全国大会が存在していたのではないでしょうか。

梅原 それは言えます。一般的に、レスリングは「けががある」と思われているようですが、少年少女レスリングは本当にけがが少ないです。骨折などはありましたが、重大なけがはなかったです。これからも、けがの防止には最善を尽くし、常に注意はしていきますが、現段階でけがに対する大きな心配はないと思います。

――伝えられている全柔連幹部のコメントに、「試合中に指導者や保護者が審判に罵声を浴びせ、子どもの対戦相手をののしる例もあった。このままでは子どもにしわ寄せがいく。いったん止めようとなった」というものがあります。レスリングでも、保護者の過熱ぶりはこれまでにも報告されていると思います。

梅原 少年少女の全国大会は来年で40回を迎えますが、発足当初にはレスリングも柔道と同様に審判への罵声などもあり、特に女性レフェリーへの暴言はひどいものもありました。その要因の一つがマット周りで保護者や仲間が応援することでしたので、選手・セコンド以外はアリーナへの入場を規制し、応援は観客席オンリーを徹底しました。また、負けて帰ってきた選手に親が手をあげることも見受けられましたが、今泉雄策・前会長が「そうしたことは絶対に許すな」という強い姿勢を持って対応して来ました。今後も、引き続きそういった事例には厳しい姿勢で臨んで行きます。

指導者は、単にレスリングのコーチだけであってはならない

――全国大会では、会場内にマナー委員会のスタッフが何人もいますね。

梅原 罵声や抗議をしてくる指導者には「退場処分」という規則もつくっています。一方で、しっかりした審判を育成する努力もやってきました。審判のレベルアップがなされることで、審判への罵声などがほとんどなくなったことは確かです。

指導者や保護者のマナーについて厳しい姿勢で向き合ってきた今泉雄策・前会長

――柔道でも、汚い野次や暴言を野放しにしていたわけではないと思います。少年少女選手への教育より、大人への教育の方が難しいのではないでしょうか。

梅原 レスリングでは最近、度が過ぎる暴言などはほとんどないです。ときたまセコンドについたコーチがエキサイトしてしまうシーンを見ることはありますが、すぐにおさまります。各ブロックで指導者教育もしっかりやっています。私たちの努力の成果は出ていると感じています。

――暴言や度が過ぎる叱責が恥ずかしくなるような雰囲気ができているわけですね。

梅原 私たちは競技者だけを作っているのではありません。これからの日本を支えていく人づくりが基本です。そのためにレスリングがあるのです。指導者も、単にレスリングのコーチだけであってはなりません。教育に関わる者として、子供たちを人間として正しく育てることが必要です。そのあたりを、はき違えてはなりませんし、常に伝えていることです。

―減量の問題もあったようです。成長段階の子供に無理な減量を課すことが多く、室伏広治・スポーツ庁長官はこの面から全国大会廃止を支持したようです。レスリングは柔道より細かく階級が分かれているので、柔道ほどの減量はないわけですが、勝たせることしか視野にない親がいれば、無理な減量も存在すると思います。

梅原 連盟では、減量は禁止しています。ただ、100パーセント把握できているか、となると、そうではないと思います。ないことを信じたいですが、分かりません。各階級の体重差が2~4kg程度ですから大きな減量はないはずです。出場申し込みから試合までの間に体重が増えてしまう場合もあり、数百グラム程度の体重調整なら許容範囲かな、とも思います。

すべての選手が全国大会を目指さなくてもいい

――子ども時代は「苦しむ」のではなく、「楽しむ」ためにスポーツをやるべきだ、という考えもあります。格闘技の場合、競技特性からして「楽しむ」より、「苦労を乗り越えろ」という部分が大きな割合を占めるわけです。親もそれを望んでやらせているケースが多い。減量や勝利至上主義からの脱却は分かりますが、全国大会の廃止がそれにつながるものでしょうか。

5.6年生で実施された昨年の全国大会(熊本市)。今年は3年ぶりに4学年での実施となる=撮影・保高幸子

梅原 確かに、ゲーム性の強いスポーツに比べ、「楽しむ」ということは少ないスポーツだと思います。頑張ることで、心身の成長が期待されるスポーツです。その目標として全国大会があっていいと思います。ただ、すべての選手が全国大会を目指さなくてもいいし、目指させなくてもいい。レスリングは全身運動ですので、他のスポーツと併用するのも良いでしょう。結果的にこの競技を継続してくれることを望んでいます。連盟はその一環として、今年の理事会で6年間継続してクラブに在籍し、練習してきた選手を表彰することに決定しました。その他にも運動がまったくできない子が、マット運動などしっかりできるようになり「学校の授業でお手本にまでなった」といった例も報告されています。そうしたことでいいと思います。その過程の先に全国大会があるわけです。連盟では今後も「苦しむ」のではなく、出場することが楽しみな大会になるように工夫を重ねていきたいと思います。

――柔道界が未来を見据えるためにした決断です。他競技やスポーツ界全体の意見を参考に、「勝利から得られるもの」と「勝利への固執で失われるもの」とを天秤にかけ、論議する必要があるかと思います。

梅原 その競技ごとの歴史やバックボーンがあります。「周囲がそうだから」で判断するのではなく、レスリングはレスリングで考えていきたいと思います。







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