(文=ジャーナリスト・粟野仁雄)
2022年インターハイの個人戦女子74kg級は、昨年優勝した茂呂綾乃(東京・安部学院)が圧倒的な力を見せつけて連覇した。今年4月のジュニアクイーンズカップU20-76kg級でも、大学生相手に勝ち進んで優勝しており、急成長の選手だ。
前日の準々決勝では、6月の明治杯全日本選抜選手権にも登場した中村旭(東京・日体大桜華)を破り、準決勝で坂井愛(岐阜・岐阜工)をテクニカルフォールで破っていた。8月3日の決勝では、高巣菜々葉(大阪・堺リベラル)と対戦。ライバルと目された駒田真琴(静岡・沼津城北)は、急遽不出場となっていた。
高巣と相対した茂呂は、タックルから素早くローリングに転じてすぐに4点を取った。相手を場外に押し出して1点を追加。がぶり返しで相手をつぶすなどして9-0と差を広げる。高巣に息つく間も与えない猛攻ぶりで、その後、一挙に4点を取って13-0でテクニカルフォール勝ちした。まったく危なげはなかった。
茂呂は中学2年生から一度も試合で負けていないという。その連勝の数字を訊くと、「数字とかは数えていないんですよ。そういうの、あんまり気にならないんです」と屈託ない。
足立区北千住など東京の下町で育ち、4歳からレスリングを始めた。家族や親戚がレスリングをやっていたわけではないそうだ。
「親が子供に何か習い事をさせる一環で、たまたま近くにレスリング道場があったので、通い出したんですよ。体操をしていたり、遊びのつもりだったんですけど、一度出た試合で負けて悔しさが忘れられず、本格的に始めてしまったんです」。生まれながらの闘争本能が芽を出したのだろうか。
全国中学選手権は3連覇。「至学館クラブ」で練習していた2019年には、U15アジア選手権(台湾)で4試合戦って3試合をフォール勝ち、1試合をテクニカルフォール勝ちするという驚くべき快挙で優勝を達成している。
最後のインターハイを終えても休む間はなく、8月15日からブルガリアで行われるU20世界選手権に臨む。中学からの無敗記録をどこまで伸ばせるか、楽しみだ。本人も「決まっていた海外派遣がコロナで中止になったりしていたので、楽しみです。頑張りたい」。
重量級は、世界の舞台で浜口京子や皆川博恵らが奮戦してきたが、骨格的に日本人は厳しいのは確か。しかし茂呂は、「生意気なようなんですけど、先人の誰かを目標選手として定めて、その人を目指すというようになると、なんだか、そこで止まってしまうような気がして…。それより、パリ・オリンピックを目指すという目標がいいと思うんです」と話した。
この日、ほとんど時間を置かずに行われた62kg級では、同僚の佐々木すずが小野こなみ(東京・日体大桜華)を破って連覇した。安部学院は、東京オリンピックの女子50kg級で金メダルに輝いた須﨑優衣(キッツ)と53kg級金メダリストの志土地真優(旧姓向田=ジェイテクト)を輩出。2人とも、時々練習に来るなど刺激は十分だ。
最後に「マスクを取った写真を撮らせてください」とお願いしたら、最初は「えーっ、やだあ」-。最後は了承してくれたが、「上の方から小顔に撮ってくださいね」とリクエストされた。マット上のたくましさからは、想像できないような無邪気なあどけなさを見せた。