【特集】新たなスタート、立ち位置を見極めつつ上位入賞を目指す…男子グレコローマン77kg級・屋比久翔平（ALSOK）

屋比久翔平（ALSOK）＝撮影：保高幸子

　東京オリンピックで銅メダルを取り、日本グレコローマン中量級の救世主的な活躍が期待されるようになった77kg級の屋比久翔平（ALSOK）。昨年12月に首（椎間板ヘルニア）の手術をして体のメンテナンスに取り組み、復帰して6月の全日本選抜選手権で優勝。第一人者の実力を見せた。

　7月には、ポーランドで行われた世界選手権の前哨戦的な意味合いを持つ「ピトラシンスキ国際大会」で2位に入賞。国際舞台での成績も残し、4度目の世界選手権へ挑む。オリンピック王者のタマス・ロエリンツ（ハンガリー）は引退し、オリンピックV2のロマン・ブラソフ（ロシア連盟）は、ロシアへの制裁のため不出場（注＝出たとしても、今年は82kg級だった）。

　東京オリンピックまでとは勢力図が変わることで、「現時点での世界での立ち位置を測る大会、という思いが強いです。メダルを狙う中で、世界の強豪とどう闘っていけるかを確認したい」と、銅メダル獲得の過去を忘れ、手術後の自分の実力を見極めることに主眼を置く。

手術を経ても、前に出るスタイルは変わらない

　手術によって新しい技やスタイルに挑んだなどはなく、自身の原点である“前に出るスタイル”に変わりはない。それを明確に表したのが、「ピトラシンスキ国際大会」の準決勝、前田明都（レスターホールディングス）との一戦ではないか。前田の猛攻に第1ピリオド、0－7とされ、あわやテクニカルフォール負けのピンチに追い込まれたが、第２ピリオドに入って反撃。最後はスタンドから崩して倒し、そのままフォールを奪った。

東京オリンピックでは、前に出て相手のスタミナを奪う闘いが成功し、銅メダルを手にした

　単にスタンドでの崩し技を持っていたから勝てたのではない。前に出て攻めて、前田の体力を奪っていったからこその逆転フォール勝ち。前田の表情には、ポイント差を縮められるにつれて焦りがはっきりと見えた。そうした過程を経ての逆転であり、出合い頭に技が決まっての逆転劇ではなかった。

　同大会の1、2回戦では、ポーランドとスイスの選手にも前に出て相手のスタミナを奪ってからポイントを取る闘いが成功。「最後まで詰めて、相手のスタミナを奪いつつポイントを取りにいく形ができた」と話す。テクニカルフォールにまで持っていくことはできなかったが、着実な勝利をおさめている。

　東京オリンピックの3位決定戦では、モハマダリ・アブドルハミド・ゲラエイ（イラン）相手に豪快なリフト技を成功させ、「屋比久＝リフト技」というイメージが出来上ってしまった感もあるが、決してそうではない。最終的に大技を爆発させることはあっても、それは前に出て相手のスタミナを奪うという基本があればこそである。

国際合宿で世界でやっていける感触は持てた

　ただ、屋比久は前田戦について、前半にあれだけ攻められたことは反省点として受け止め、「外国選手相手なら、逆転はできなかったかもしれない」と振り返っている。後半勝負ではスタミナのある日本選手が有利と言われているが、外国選手の粘りは驚異的なこともあり、いつも7点差をひっくり返せるものではない。「先行」が勝つための基本であることは十分に理解している。

リフト技も多用、攻撃に幅が広がった屋比久＝今年6月の明治杯全日本選抜選手権、撮影・矢吹建夫

　決勝は昨年の欧州選手権2位のゾルタン・レバイ（ハンガリー）に敗れ、「まだ世界の上位クラスにはいないのかな」という感想。レバイは、東京オリンピック王者のロエリンツ（前述）の影に隠れていたが、実力は十分で、屋比久が東京で必死の思いで勝ったゲラエイ（前述）に準決勝でテクニカルフォール勝ち。オリンピック王者に匹敵する実力を持つ選手だ。

　東京オリンピックでは反対ブロックで闘うことはなかったが、銀メダルを取ったアクジョル・マフムドフ（キルギス）は、今年4月のアジア選手権（モンゴル）と8月のイスラム競技大会（トルコ）を制し、脅威となる一人。オリンピックで銅メダルを取った屋比久とはいえ、安閑としていられない状況だ。

　ただ、「ピトラシンスキ国際大会」のあとに行われた10ヶ国参加の合宿では、「自分がやりたいこともできたし、守りもしっかりできた」との感想。世界でやっていける感触は得ている。立ち位置を見極めつつ、上位入賞も期待できる4度目の世界選手権だ。