【特集】「パリ・オリンピックの金メダルまで勝ち続ける！」…挑戦できることがうれしくて楽しい女子55kg級・志土地真優（ジェイテクト）

（文・撮影＝保高幸子）

　「パリ・オリンピックでの金メダルまで全勝。これが一番の目標です」－。9月10日からセルビアで始まる2022年世界選手権の女子55kg級代表の志土地真優（ジェイテクト＝旧姓向田）は、目を輝かせながら、うれしそうに話す。

新たな目標に向けて練習する志土地真優（ジェイテクト）＝8月下旬、東京・安部学院高

　数々の困難を乗り越え、昨年夏、東京オリンピック女子53kg級で栄光の金メダルを獲得。「東京オリンピックで金メダルを取ったら、レスリングをやめようと思っていた」という志土地が、「金メダルの2日後くらいには、もう一回、この色のメダルを取りたい、練習をしたい、という思いになっていました」と振り返る。次に挑むのはなぜか。

　「本当にたくさんの方からメッセージをいただきました。自分の知らない人まで応援してくださっていて、それがすごくうれしくて」。世界選手権とは反響の大きさが違い、自分が頑張ったことでたくさんの人が喜んでくれることを、オリンピックの金メダルで初めて感じたと言う。

　レスリングに対する向上心が消えないのも大きな理由だ。パン・キアンユ（龐倩玉＝中国）との東京オリンピックの決勝の第2ピリオドは満足しているものの、「第1ラウンドや、決勝戦以外では悪い部分がかなり出てしまって、自分のレスリングができなかった。まだ修正できると思った」と高いところを目指したい気持ちが残っている。「フィジカル面も技術面も、ここで終わりじゃない。まだどちらも上げていきたい」－。

負けた相手へリベンジしたい気持ちが、闘いを続ける理由

　志土地は、東京オリンピックまでの世界選手権やアジア選手権では何度か敗れており、まだ最強ではないという思いが、現役続行の気持ちを後押しした部分も強くあるようだ。

まだ最強ではないという思いが、レスリングを続ける原動力＝同

　「吉田沙保里さんがいた時、『強い人に勝ちたい』という気持ちでやっていたのがモチベーションでした。私は海外の選手に何人か負けているので、その選手を倒そう、その選手を越えなきゃいけない、というのもあります。倒さなきゃいけない選手がいっぱいいるんですよね！」と笑う。オリンピック・チャンピオンになって、なお越えなければいけない選手が複数いる。越えたい、と燃えられる喜びで競技を続けている。

　東京オリンピックを終わってからは、”神経系のトレーニング”を取り入れた。後ろ向きにダッシュしたり、普通のトレーニングでは行わない動作を取り入れたりすることによって、体を自分でコントロールしやすくなっているそうだ。

　「私は、もともと器用な方ではないので、技を覚えるのに、人よりも時間がかかるんです。このトレーニングも、最初は全然できなくて…。でも、できるようになるとうれしい。不器用でよかったなって思います」と、またうれしそうに笑う。

藤波朱理との激突に話がいっても、ニコニコ顔！

　53kg級での2024年パリ・オリンピック挑戦には、昨年の世界チャンピオンの藤波朱理（日体大）が立ちはだかる。直接対決は、おそらく年末に迫っている。それについても「本当に厳しい闘いになると思うんですけど… 」と言いながら、その表情はニコニコ。「藤波朱理ちゃんもですけど、いろんなライバルの選手がいるので、東京よりも苦しい闘いになることは分かっています。でも、それに挑戦できるのが、またうれしくて楽しい。チャレンジャーの気持ちですね」と、オリンピック金メダリストが笑う。

入籍して初の世界選手権。夫・翔大コーチもセルビアへ向かう＝同

　ここまでレスリングを楽しめているのは「5歳から今までレスリングやってきた中で今が一番」と志土地。東京オリンピックまでは、数多くのプレッシャーから、泣きながら練習するような追い詰められた気持ちもあった。今の志土地は、話していても本当に楽しそうで、東京オリンピックの時とはメンタル面でのレスリングへの向き合い方が全く違う。

　この世界選手権に向けては、「自分のレスリングを出して、金メダルを獲りたい」と、夫・翔大コーチとともに強化してきた部分を出し、東京オリンピックの時よりも、さらに満足できるレスリングをすることだ。「パリ・オリンピックの金メダルまで、ずっと勝ちたいです。同じ金メダルだけど、自分の中ではさらにきれいな色の金メダルにしていきたいな、って思います」－。

　一皮むけた志土地のパリ・オリンピック挑戦の最初のステージ。黄金以上に輝くメダルを手にしたい。