【2022年世界選手権・特集】今回の優勝をバネに、さらにステップアップを目指す…女子55kg級・志土地真優（ジェイテクト）

　【ベオグラード（セルビア）／文＝布施鋼治、撮影＝保高幸子】セルビアで開催中の世界選手権・第４日（９月13日）。女子55㎏級では志土地真優（ジェイテクト）が全試合無失点という圧巻の強さを見せつけて優勝した。

　「せっかくの世界選手権なので、とにかく強気で挑もうと思いました」

余裕十分で決勝のマットに向かう志土地真優（ジェイテクト）

　決勝で当たったアレンサンドラ・ホメネンツ（ウクライナ）は、昨年3位の実力者だったが、志土地の敵ではなかった。第１ピリオド早々、スッと相手の懐に入りバックを奪う。ホメネンツがタックルに来ると、サークリングしてブロック。そのままサイドにつき反撃のタイミングをうかがう。

　その後も志土地は攻め続け、最後は得意のローリング２連発で10点差をつけ、テクニカルフォール勝ち。その間、わずか51秒の秒殺劇だった。志土地は「初めて試合をする選手だった」と言う。「残り１試合ということで緊張もしたけど、『自分を信じて闘おう』と心に決めていました。気持ちを切らさずに闘えてよかった」

　志土地姓になってから初めての国際大会だった。会場に映された電光掲示板には「Mayu SHIDOCHI MUKAIDA」と旧姓も合わせて紹介されていたが、試合に集中していた志土地がそれに気づくことはなかった。

　「あとから後輩に『（現姓が）ミドルネームみたいに紹介されていたよ』と教えてもらいました」

試合内容が証明する“結婚による実力アップ”

　最大の勝因は、初戦から決勝まで試合を楽しもうという気持ちで臨めたことに尽きる。

5試合を無失点で優勝、圧倒的な強さを見せた

　「この前の明治杯（全日本選抜選手権）から、試合がとても楽しい。残りのレスリング人生の中で、こんな緊張感を味わえることはそうそうない。そういった意味で、一戦一戦、悔いなく闘おうと努めました。（個人的には）明治杯のときより試合内容はよかったと思います」

　第三者の目から見ても、志土地の言葉には納得するしかなかった。終始安定していて、つけ入るすきがない。以前は、ここ一番というときに乱調になるケースが目立っていただけに、まるで別人のように映った。志土地にとって、志土地翔大コーチとの結婚が大きなプラスになったことは、試合内容が如実に証明している。

　「後半に大逆転で負けたりしたこともあります。今は、そういう負けを直前に思い出して、『ああいう思いはもうしたくない』と言い聞かせるようにしています。そこは、ひとつ乗り越えることができたと思います」

「強い選手と闘えることがうれしい」の気持ちで全日本選手権へ臨む

　今年12月の天皇杯全日本選手権からは、オリンピック階級である53㎏級に戻す予定。そうなると、この世界選手権をけがで欠場した昨年の世界選手権・同級優勝、藤波朱理（日体大）との“「オリンピック＆世界チャンピオン・対決」は避けられそうもない。

この笑顔、来年、そして再来年のパリで見られるか

　志土地は「強い選手と闘えることがうれしい」と吐露した。「藤波選手はパリに向け倒さなければいけない存在だと思う。今回の世界選手権優勝をバネに、さらにステップアップできるように頑張っていきたい」

　志土地コーチは、今回の優勝を「パリ・オリンピックで連覇を目指す中での通過点のひとつ」と位置づける。「真優の強さを世間にアピールする、いい機会でした」

　大会のテーマは「全試合圧勝」だった。その通りになったわけだが、コーチの目から見ると。最後まで気は抜けなかったという。「（勝負の世界は）運やタイミングもある。真優の手が上がるまでは、そういう気持ちを維持していました」

　数年前と比べると、後半戦の安定度はまるで別人。結婚を機にさらに強くなった東京オリンピックの女王は、３ヶ月後の全日本選手権で、どんな活躍を魅せてくれるのか。

　楽しみながら闘える者は強い。