【2022年全日本女子オープン選手権・特集】パイオニアとしての強い意志！ 出産から5ヶ月後の復帰戦は3試合に快勝…女子59kg級・金城梨紗子（サントリービバレッジソリューション）
（文＝布施鋼治）
2016年リオデジャネイロ大会に続き、昨年の東京オリンピックでも金メダルを獲得。その後、結婚・出産と“怒濤のような幸せな日々”を送っていた金城梨紗子（旧姓川井＝サントリービバレッジソリューション）が早くも復帰した。
10月16日、静岡県焼津市のシーガルドームで行なわれた2022年フォーデーズ杯全日本女子オープン選手権最終日。シニア59㎏級にエントリーした金城は、３試合を無失点で勝ち抜いて優勝した。
▲決勝はテクニカルフォールを逃したが、金城梨紗子は3試合に勝って復帰戦を飾った
試合後、多くの報道陣に囲まれた金城は、安堵の表情を浮かべるとともに贅沢な悩みを打ち明けた。「３試合ともあっという間に終わってしまった。もう少し試合をしてもよかったかなと思いました」
最初から最後まで圧巻の強さを見せた。中堀水葵（日体大）との初戦（2回戦）は8－0からフォール勝ち。続く長谷川姫花（大阪・堺リベラル高）との準決勝はローリングで一気に6点を奪い、10－0のテクニカルフォール勝ちを収めた。
決勝は全日本学生選手権2位で大学の後輩にあたる中西美結（至学館大）との闘い。第１ピリオド中盤までは探り合いが続く。それでも、終了間際に中西を高々と持ち上げてからテークダウンを奪うと、金城の攻めは一気に加速。第２ピリオドになると順調に点数を積み重ね、9－0で優勝を決めたが、テクニカルフォールを狙っていたのだろう。金城は少しだけ悔しがった。
「あと１点、欲しかった」
「初戦前の緊張感が一番すごかった」
もっとも、いくらオリンピックで２連覇を果たしているとはいえ、出産5ヶ月後という短いスパンでの復帰戦だ。金城は「初戦前の緊張感が一番すごかった」と吐露した。「ただ、この緊張感も久しぶりというか、すべてが終わったら『楽しかった』という印象しかなかったですね」
これまで、オリンピックに日本代表として出場した既婚者は、2012年ロンドン大会の小原日登美と東京大会に出場した皆川博恵の2人。出産を経て出場した例はない。
▲母になった金城梨紗子の復帰戦に、東京や名古屋から多くのメディアが駆け付けた
「対人競技で、これだけ早く戻ってくるということは、なかなかない。今のレスリングを見ている子に、『こういう続け方もある』と分かってもらい、次につながってくれたら、レスリング界はもっと大きく変わっていく」
“子どもがいるレスラー”のパイオニアとしての強い意志があったからこそ、2024年パリ・オリンピックに向けての行動は早かった。長女の出産は５月だったが、６月末からは徐々に練習を再開していたという。「再開した直後は、身体が硬くなってしまっていたところもあるので、マット運動もハイブリッジもできなかった。『実戦から10ヶ月も離れていたら、こんなに変わるものなのか』という思いにかられました」
出産前と同じものは目指していない、全く違う人間としての挑戦
７月半ばになると、ようやくマット練習ができるようになった。試合の感覚を思い出すことを意識しながら調整を続けていたので、初戦で試合勘のズレに苦しむこともなかった。「出産すると女性の身体は変わると言われている。だから出産前と同じものは目指していないというか、全く違う人間になったつもりで作り上げていこうと思っていました」
出産後は、割とふっくらしている印象だったが、減量については心配していなかった。「体重も練習し続けたら、自然に戻っていった感じです。苦しい減量をしたわけではないし、ほぼ自然体で落ちました」
金城の名字でマットに上がることは今回が初めて。決勝のアナウンスも金城ならば、電光掲示板の表記もそうだった。
「賞状など（名前の入った）形に残るものをいただけたので、本当に光栄です」
▲「金城梨紗子」と書かれた表彰状を受け取った
観客席では金城家が彼女の活躍を見守っていた。「（大会の途中で）抱っこもしたかったけど、試合もあるし、終わってからにしようと思いました」
今回は非オリンピック階級の59㎏級での出場だった。パリ・オリンピックの予選スタートとなる12月の天皇杯全日本選手権では、「何㎏級でエントリーするのかと？」いう質問に対しては明言を避けた。
今年９月の世界選手権では57㎏級で優勝した櫻井つぐみ（育英大）との初対決は実現するのか。
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