――年間の多くのツアーに参加するための体力は、レスリング時代の体力づくりがベースでしょうか?
岡村 基礎的な体力はレスリング時代に養ったものだと思います。よく「体幹が強いね」と言われますけど、それもレスリングで鍛えたからだと思います。レスリングあっての今だと思っています。
松本 今、1日の練習時間はどのくらいですか?
岡村 ショットといって、フルスイングの練習は1時間から1時間半くらいですね。
松本 長い! 私だったら、手の皮がすりむけそう(笑)。
岡村 力の入れ方が分からない最初のうちは、そうなると思います。手袋があった方がいいですね。パターとかの練習は、もっと時間をかけますね。
松本 トータルの時間は?
岡村 5時間くらいですかね。
松本 5時間!
岡村 コースへ出ての練習も含めてですけど。
松本 (勤務先の)アイスクリームを送り続けますから、指導してください。吉田沙保里さんとか、だれにも負けたくない(笑)。
――岡村さんは、アイスクリームは好きですか?
岡村 好きで、冬でもよく食べます。ただ、(アスリートとして)罪悪感はありますね。
松本 その気持ちはよく分かります。でも、体を動かすと、どうしても食べたくなりますよね。でも、ウチのアイスクリームは、アスリートにも大丈夫なような材料で作ってあるから大丈夫。太るときって、感覚で分かりますか?
岡村 それはないですね。体重に制限のあるスポーツではないので、体重をそこまで意識することはないです。
松本 そうだね。私たちは、スタッフが試して、太らないアイスクリームの研究もしています。太るときって、最初、皮膚がむくんで、次にふわふわして、痛かったりかゆかったりして、その感覚がなくなったとき、体重が増えているんですよね。アスリート向けのアイスクリームも研究しています。
――松本さんは、柔道あっての今だと思いますが、今の職業に役立っていることはありますか?
松本 ありますよ。柔道は、いかに相手を殺すか、アイスクリーム店では、いかに相手を生かすか。それが変わっただけです。殺すか生かすかは全然違うんですけど(笑)、相手があってのこと、という点では共通です。相手をにらまなくなったことは、大きく変わりましたけど(笑)。
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▲故郷(石川県)の後輩になる川井姉妹の東京オリンピック金メダルを祝福した松本さん
――松本さんは、すでに競技から引退されていますが、男性コーチや関係者にこれだけは知ってほしい、という女子アスリートならではの悩みやリクエストはありましたか?
松本 私はけっこうオープンでした。生理が来たら、コーチに「生理が来ました」と言いましたし。男性コーチは、生理のときはイライラするとか、体重が落ちづらいとかは知ってほしいですけど、そうでない指導者もいるみたいです。言えない女子選手もいますよね。
岡村 いますね。
松本 そうした面への取り組みがやっと行われるようになりました。その部分をもっとオープンにし、理解されるようにしてほしい、ということです。あと、アスリートの幅が広がっているので、産後のケアに対する理解がもっと広まってほしいと考えています。これからはママさん選手も増えていきます。この部分は、日本はとても弱い部分じゃないかな、と思います。子供を生んででも現役選手としてやっていける環境をつくることで、そういう選手が増えてくればいいな、と思います。
――12月初めに東京で行われた柔道の「グランドスラム東京」にも出場していましたが、63kg級の堀川恵選手(旧姓津金=2022年世界選手権優勝)や高市未来選手(旧姓田代=2016年リオデジャネイロ&2021年東京オリンピック代表)のような既婚の選手が、ようやく出てきましたね。
松本 よかったです。前までは、男性と交際してもダメ、みたいな雰囲気や風習もありました。
岡村 それで成績が悪くなってしまう選手がいることも確かなんですが…。
松本 ちょっとでも成績が悪くなると、「男ができたからだ」なんて言われて。本当に強くなる選手は、一番は何か、自分の中の優先順位をいつも意識していているんですよ。強くならない選手は優先順位をつけられないからであって、そんな選手は男性と交際していなくても、強くなれないんですよ。
岡村 そうかもしれないですね。
――選手生活を引退した立場から、一流選手のセカンドキャリアについてのお考えをお聞きしたいです。岡村さんへのアドバイスとか。
松本 セカンドキャリアですか…。岡村さんのような現役バリバリでは、なかなか考えられないと思いますよ。
岡村 確かに、まだ、そこまでは考えていないです。松本さんは、いつから第二の人生といったものを考えられましたか?
松本 柔道でやっていけるとは思っていなかったこともあって、かなり昔から考えていたような気がします。柔道で行けるところまで行く、と思ったのは大学へ入ってからですけど、柔道をやめたら何をやっていけるか、ということは、いつも考えていました。
岡村 しっかりしていましたね。
松本 でも、考えても答えが出てこないんですよ。目の前に柔道という大きな目標があるから、その先のことはなかなか考えられなかった。ま、出なくてもいいの(笑)。引退したら、こっちにおいでよ(笑)。そう言ってくれる人、多くいるから。
岡村 アイスクリーム作りでやとってください(笑)。
松本 引退後にやりたいことは特になかったんですけど、勤めていた会社が「何が向いているか考えとくから、それまでは柔道を一生懸命やれ」って言ってくれて(笑)。それなら、柔道を頑張ろうと思って集中できました。
岡村 正直、私も今は引退後の人生のことは考えられないですね。ただ、結婚もしたいし、結婚しても競技は続けたい、という気持ちはあります。
――松本さんの2023年の目標をお願いします。
松本 やっぱり、世界一を狙っています。海外のアスリート仲間と食卓を囲んだとき、宗教上の理由やアレルギーの問題で、一緒に食べられなかったことがあったんです。これじゃあ、よくないな、世界中のみんなが笑顔で食べられるものがあればいいな、と思いました。そんな経験から、世界一のアイスクリームが目標です。だれもが笑顔で食べてもらえるようになったときが世界一かな、と思っています、
岡村 新しい種類を考えたりするのでしょうか。
松本 考えてはいるんですけど、意外に時間がないんですよね(笑)。
――岡村さんの2023年の目標をお聞かせください。
岡村 1月6日から台湾で大会があります。まず、そこに全力集中です。
松本 正月から台湾? 台湾カステラ、お願いします(笑)。
岡村 台湾は旧正月の国ですから(2023年は1月22日が元旦)、日本の正月は関係ないんです。まず年の初めに1勝したい、という目標を持っています。
松本 勝っても負けても、頑張ってきて。でも、現役時代は「勝たなければ」という気持ちですよね。
――最後に、お2人がレスリングを続けていたら、どこまで行ったでしょうか。
松本 たぶん、オリンピックは行ってないですね。岡村さんは、行っていたんじゃないですか?
岡村 (笑)。オリンピックで金メダルを取っていたと思います、と言っておきます。
松本 絶対に取っていましたよ。
《完》