2024年パリ・オリンピックで2連覇を目指す女子50kg級の須﨑優衣(キッツ)は、2月初めの世界レスリング連盟(UWW)ランキング大会「ザグレブ・オープン」(クロアチア)で優勝。幸先いい2023年のスタートを切った。
3月11日、東京・水道橋にある格闘技ジム「アカデミア・アーザ」で行われたダウン症のある人を対象とした「わくわくレスリング教室」(太田拓弥代表=中大コーチ)に参加。障がいと向き合いながら人生に挑む人たちにレスリングを教え、一緒に汗を流した。
「みんな純粋にレスリングを楽しんでいますね。レスリングを楽しむ気持ちが大事です。私も、レスリングを楽しむ、という原点を忘れずに頑張っていこう、という気持ちになりました」
同選手は早大に入学する前から、早大レスリング場で行われていた「わくわくレスリング教室」に関心があり、2018年の入学と同時に携わり、コーチとして参加するようになった。コロナ禍もあって間が空いてしまったが、今年に入って、太田コーチが都心で再開したことをインスタグラムで知り、自ら連絡して、この日の練習に参加した。
オリンピック金メダリストが来るということで、選手は練習前からハイテンション。太田代表が選手に「須﨑選手に教えてほしい技は?」と聞くと、即座に「アンクルホールド」と答え、オリンピックの活躍をしっかり見ていたようだ。スパーリングが始まると、須﨑に挑む意思表示を積極的に示す選手もいて、同代表が「気持ちの盛り上がり方も、動きも違います」と驚くほどだった。
須﨑は、この教室に通う選手から大きなエネルギーをもらったことがある。2019年12月の天皇杯全日本選手権(東京・駒沢体育館)。消えかけていた東京オリンピック出場の望みが戻り、人生をかけて闘う日に、「わくわくレスリング教室」の選手たちが大挙して応援に駆けつけてくれた。「優衣コーチ、がんばれ!」という声がはっきる分かるほどの熱の入った応援を受け、そのときの感謝の気持ちは忘れていない。その思いがあればこその練習訪問だ。
練習では、リクエストにこたえてアンクルホールドを指導し、選手がうまくできないときは手取り足取り教える。スパーリングでは、タックルを受け止め、相手の動きが止まってしまうと、「力を入れて!」とアドバイス。
質問コーナーでは、言いたいことをうまく伝えられない選手に対しても、しっかり向き合って話を聞き、練習後には「何歳? 今度、高校に通うんだ」などと話しかけ、全選手に気を配った。練習見学の保護者も、その真摯な姿勢に感動の様子で、記念撮影などをお願いした。
昨年は世界選手権(セルビア)とU23世界選手権(スペイン)で優勝し、今年に入っても「ザグレブ・オープン」優勝と絶好調。この勢いを6月の明治杯全日本選手権にぶつけ、9月の世界選手権(セルビア=パリ・オリンピック第1次予選)の代表権を手にするもくろみだが、その前にアジア選手権(4月9~14日、カザフスタン・アスタナ)があり、まずここに全力集中となる。
最近の結果と闘いぶりを見る限り、負ける気配は微塵も感じられないが、「オリンピック2連覇を目指すチャレンジャーなんです」と話し、気持ちを引き締めてパリまでの道を突き進むつもりだ。
1月14日に都心での活動を再開した「わくわくレスリング教室」は、今後も月2回のペースで練習をしていく予定。練習を積んだことで技の上達は目に見えて分かるそうだ。
コロナに関する制限が解除されつつあることで、同代表は「国内で賛同するクラブやコーチ、スタッフが増えてほしい」と希望する。この日の練習でも、選手は「試合(スパーリング)しよう」と口にすることが多く、闘うことに対して前向き。1日も早いダウン症の選手のための大会の再開が望まれる。
同代表は「(指導者などの)バイタリティーが必要なことですからね」と簡単にはいかないことは理解している。「徐々にやっていきたい」と話し、全国のキッズ・クラブに訴えていきたい気持ちを話した。
教室再開のニュースは世界レスリング連盟(UWW)のホームページにも掲載され、米国から反応があったという。米国協会の役員も務める人が、ちょうど別件で来日し、太田代表が都内で会って「将来の交流ができればいい」といった方向で話が進んだと言う。
オリンピック金メダリストのパワーも受け、「わくわくレスリング教室」は一歩ずつ前進していく。
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