2024年パリ・オリンピックまで500日を切った。レスリングの予選は今年秋の世界選手権からスタート。男女18階級(男子両スタイル各6階級、女子6階級)の288枠を目指した闘いが間もなく始まる(日本の国内予選はすでにスタート)。
ひと足先に、パリ・オリンピックで予想されるレスリングの注目トピックスを追った。
レスリングのみならず、あらゆる競技で最大の焦点となっているのが、ウクライナ侵攻でスポーツの国際大会から除外されたロシアとベラルーシの選手が出場できるかどうか。レスリングでは、ロシアが不参加となれば真の世界一決定戦とは言い難くなるのは事実。
各競技のオリンピック予選のスタートへ向け、国際オリンピック委員会(IOC)は「中立」を条件に両国の参加を提唱するが、欧州を中心に反発が相次ぐ。地元パリのイダルゴ市長は侵攻が終わらない限り、ロシア選手団が参加することに反対の意向を表明している。どんな形であってもIOCがロシア選手の参加を認めるなら、多くの国が出場をボイコットする可能性もある。問題の決着は予想できない状況となっている。
ロシアが参加すれば、男子フリースタイル97kg級のアブデュラシド・サデュラエフの3連覇や、男子グレコローマン77kg級のロマン・ブラソフの3度目の優勝なども注目される。
2021年東京オリンピックの男子グレコローマン130kg級はミハイン・ロペス(キューバ)が優勝し、レスリング男子では史上初となるオリンピック4連覇を達成した。38歳で迎えた東京大会を最後にする予定だったが、優勝後、5連覇への挑戦を問われると、「何人もの人から、選手生活を続けるよう言われている。もちろん、考えてはいる」とコメントした。
その後、公式的なコメントは伝わらず、大会出場もしていないが、東京大会では、それまでの3度の世界選手権に出場しなくとも栄冠を手にしており、大会に出場しているかどうかはあまり参考になるまい。
パリでは、夏季オリンピックではだれも達成していない個人での5連覇へ挑むか。その快挙が達成されれば、41歳での優勝となり、レスリングの最年長オリンピック王者という名誉もつく。
女子50kg級で東京オリンピック銅メダルを獲得したマリア・スタドニク(34=アゼルバイジャン)が、2024年パリ・オリンピックを目指して現役続行。伊調馨も吉田沙保里も達成していない「オリンピック5度出場」「メダル5個」の偉業へ挑戦する。
同選手は、2008年北京大会からオリンピックに4度連続で出場し、銀メダル2個、銅メダル2個を獲得。東京オリンピックの後、約1年休んだが、昨年夏に復帰。今月初めの「ダン・コロフ-ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)で優勝し、変わらぬ実力を見せている。
2004年にオリンピックに採用された女子は、2021年東京オリンピックが5度目の実施。5度出場した選手はおらず、4度出場したのは伊調、吉田、スタドニク、マリアンナ・サスティン(ハンガリー)、ソフィア・マットソン(スウェーデン)、マルワ・アムリ(チュニジア)の6人。
スタドニクがパリ大会に出場すれば、「36歳2ヶ月」での出場。これまでの最年長のチャンピオンは伊調の「32歳2ヶ月4日」、最年長のメダリストは吉田の「33歳10ヶ月13日」。出場回数とともに、最年長での金メダル、およびメダルへの挑戦となる。2児の母親であり、世界中の“ママさん選手”の目標ともなろう。
なお、マルワ・アムリ(34歳)も現役を続行しており、昨年の世界選手権や今月の「ダン・コロフ-ニコラ・ペトロフ国際大会」に出場。5度目のオリンピックを目指している。
オリンピック・マークの5つの輪は「5大陸」を意味し、世界中のアスリートが一堂に会してこそオリンピックの意味がある。レスリングは、アフリカ大陸とオセアニア地域の普及が遅れている。アフリカからは、2004年アテネ・オリンピックでイブラヒム・カラム(エジプト)が優勝するなど、男子では時に強豪が出てきたが(ただし、エジプトからのオリンピックの優勝は56年ぶり)、女子の普及が課題のひとつだった。
国際レスリング連盟(FILA=現UWW)はアフリカの振興のため、セネガルに「アフリカセンター」をつくり、アフリカの強豪選手を集めて強化。振興に力を注いだ。2015年世界選手権・女子53kg級でオデュナヨ・アデクオロイェ(ナイジェリア)が3位に入賞。2016年リオデジャネイロ・オリンピック同58kg級でマルワ・アムリ(チュニジア)が3位に入賞し、アフリカの女子選手として初めてオリンピックのメダルを獲得するまでに力をつけた。
2017年世界選手権でもアムリが2位。2021年東京オリンピックでは、女子68kg級のブレッシング・オボルデュデュ(ナイジェリア)が決勝に進み、前年世界女王のタミラ・メンサ・ストック(米国)と大激戦。惜しくも優勝ならなかったが、FILA時代からの悲願だった「アフリカ女子選手の世界一奪取」は目前に迫っている。
マルワ(34)、アデクオロイェ(29)、オボルデュデュ(34)とも現役を続けている一方、76kg級のサマー・アーメル・ハムザ(27=エジプト)も期待の一人。2016年リオデジャネイロと2021年東京のオリンピック2大会連続出場のあと、2021年世界選手権で3位、2022年は2位に躍進した。
アフリカからの移民選手も多いフランスで、アフリカの国が輝くか。
男女とも軽量級で強さを持つ北朝鮮。2021年東京オリンピックでは、2018年アジア選手権男子フリースタイル57kg級優勝のカン・クムソンや2019年世界選手権を制した女子53kg級のパク・ヨンミらに優勝の期待がかかり、1996年アトランタ大会以来の金メダルも予想された。
しかし、「新型コロナウィルスから選手を保護するため」を理由に出場を辞退。国際オリンピック委員会(IOC)は、出場資格があるにもかかわらず出場しなかったことに対し、2022年末まで資格停止処分を科し、国際大会への出場ができなかった。
処分解除のあと、現在までどの競技でも国際大会に復帰参戦したとの情報はない。ただ、昨年9月には平壌で3年ぶりにバスケットボールの全国大会が開催されたとの報道があり(韓国・聯合通信)、復帰への体勢を整えている可能性もある。
出場した場合、軽量級を中心に勢力図が変わる階級も出てくる。今年の世界選手権(パリ・オリンピック第1次予選)に出場するには、4月のアジア選手権(カザフスタン)に出場する必要がある。今年の復帰はなくとも、来年2月のアジア選手権に出場すればアジア予選にも世界最終予選にも出場できる。