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2023.03.16

【特集】パリ・オリンピックまで500日(後編)…注目のトピックス6~10

《中編から続く》


6、第2の須﨑優衣が誕生するか

 昨年10月、須﨑優衣(キッツ)が世界で初めて4世代(U17、U20、U23、シニア)の世界選手権とオリンピックで優勝する“世界のグランドスラム”を達成。後に続く選手の大きな目標となった。

 須﨑以外に4世代の世界選手権を制している選手は、女子で4人おり、パリ・オリンピックの代表権を獲得すれば、偉業達成に挑むことになる。日本では、尾﨑野乃香(慶大)、古市雅子(自衛隊)、奥野春菜(自衛隊)が4世代の世界チャンピオン。残る一人は昨年の世界選手権72kg級で優勝したアミト・エロル(米国)

 他に、清岡もえ(育英大)、稲垣柚香(至学館大)、エミリー・シルソン(米国)、クンバ・ラロック(フランス)がU17、U20、U23の世界チャンピオンに輝いて選手活動を続けており、今年の世界選手権を制してパリ・オリンピックへ出場すれば、グランドスラムへ挑むことになる。

 男子では、フリースタイル125kg級のアミルレザ・マスミ・バラディ(イラン)ら4選手がU17、U20、U23の世界選手権で優勝しており、今年の世界選手権に出場して優勝すれば、男子初のグランドスラムへ挑むことができる。

 須﨑に続いて歴史に名前を残す選手が、パリで生まれるか。

▲76kg級へアップし、パリを目指すことが予想されるアミト・エロル(米国)=2022年世界選手権


7、キルギス初のチャンピオン誕生するか

 1991年にソ連から独立し、人口600万人のキルギス。これまで、すべての競技を通じてもオリンピック・チャンピオンは誕生しておらず、同国スポーツ界の悲願でもある。2019年世界選手権の女子62kg級でアイスルー・チニベコワが優勝し、オリンピック競技の中で同国初の世界一をもたらした。オリンピック・チャンピオン誕生への期待は高まったが、東京大会では決勝で川井友香子(日本)に敗れ、悲願はかなわなかった。

 チニベコワのほかには、男子グレコローマン77kg級でアクジョル・マフムドフが銀メダル、女子68kg級でメーリム・ジュマナザロワが銅メダルを獲得。同年の世界選手権ではチニベコワとジュマナザロワが優勝。

 2022年世界選手権では、男子グレコローマン60kg級のジョラマン・シャルシェンベコフとマフムドフの2選手が優勝し、男子でも世界王者が誕生した。同大会では男子フリースタイルでも2選手が銅メダルを獲得と、日の出の勢いを見せている。パリのマットで、建国33年目の悲願達成なるか。

▲キルギス男子初の世界王者になったアクジョル・マフムドフ=2022年


8、女子レスリング発祥のフランスからの優勝なるか

 世界の女子レスリングを席巻してきた日本だが、女子レスリングの発祥の地ではない。女子レスリングは1970年代後半、フランスや北欧で競技として誕生し、1987年の第1回世界選手権(ノルウェー・ロレンスコグ、10階級)では、フランスが5階級で優勝。日本は追う立場だった。

 そのフランスは、2007年世界選手権を最後に女子の世界チャンピオンは生まれておらず、オリンピックのメダルは2004年にアンナ・ゴミス(55kg級)とリゼ・ゴリオット(63kg級)が取った銅メダル2個のみ。パリでは、開催国として金メダルがほしいところ。

 その期待を背負うのが、女子68kg級のクンバ・ラロック(24歳)。2014年ユース・オリンピック優勝で頭角を表し、2015年世界カデット選手権、2016年世界ジュニア選手権、2017年U23世界選手権と優勝を重ね、段階をふんで実力をアップ。東京オリンピック(68kg級)は13位に終わったものの、世界選手権は2017年3位(59kg級)、2018年2位(68kg級)、2022年3位(65kg級)とメダルを取り、世界一を視野に入れている。

 昨年秋には、日本が呼びかけた全日本チームの合宿に参加(関連記事)。今年は2月の「ザグレブ・オープン」(クロアチア)で優勝し、同月の「イブラヒム・ムスタファ国際大会」(エジプト)で2位と、世界レスリング連盟のランキング大会で結果を出している。女子レスリング発祥国の意地を地元で見せられるか。

▲今年2月の「ザグレブ・オープン」で優勝し、好調のクンバ・ラロック=UWWサイトより


9、中国女子の再浮上なるか

 かつて日本を凌駕する可能性があった中国女子。ワールドカップでは2007~11年の5年間にわたって日本の優勝を阻止する強さを見せた。

 しかし、オリンピックでは2008年北京大会72kg級でワン・チャオ(王嬌)が勝って以来、優勝から見離されている。それでも、2018年アジア大会では重量2階級で優勝し、世界選手権57k級でもロン・ニンニン(栄寧寧)が優勝。2019年世界選手権でも「銀1・銅4」を取って強国の一角をキープ。東京オリンピックでは2階級で決勝に進み(須﨑優衣向田真優に敗れて)、銀メダル2個、銅メダル1個を取って持ちこたえた。

 選手がかなり入れ替わった昨年の世界選手権は、「銀1・銅2」を取ったものの、初戦敗退の選手もいて、全体として見ると往年の強さは感じられなかった。コロナ対策でオリンピック予選とオリンピック以外の国際大会を控えていた影響なのか。それでも、アナトリー・ベログラゾフ氏(ロシア=世界3階級を制し、高田裕司・元日本協会専務理事と富山英明・現日本協会会長のライバル)をコーチに招聘し、再浮上を目指している。

 アジア女子の振興のためにも、復活が待たれる国。昨年12月のワールドカップでは地元の米国を破るまでに実力をアップ。今年に入って2度の世界レスリング連盟(UWW)ランキング大会の「ザグレブ・オープン」(クロアチア)と「イブラヒム・モスタファ国際大会」(エジプト)に出場し、メダル獲得者も多数となり上昇ムードが感じられる。両大会の50kg級は、出場3選手がいずれも3位以内に食い込んでいる。これは、国内でもハイレベルの競争が展開されることを意味する。

 今年のアジア選手権と世界選手権で勢いをつけ、パリ・オリンピックへつなげられるか。

▲「イブラヒム・モスタファ国際大会」50kg級決勝は中国同士の対戦。国内の熾烈な争いで再浮上なるか=UWWサイトより


10、出場国数「61」、メダル獲得国数「26」を上回れるか

 2013年に一時的だがオリンピック競技から除外されたレスリング。その要因のひとつに、世界的な普及の遅れと強豪国の偏りがあったと言われている。

 東京オリンピックでのレスリングの出場国は61ヶ国(287選手)であるのに対し、柔道は128ヶ国(387選手)と倍以上。米国やロシア、イランではレスリング選手の方が圧倒的に多いので、競技人口の面ではともかく、世界への普及に関しては、柔道の方がはるかに上というのが現状だ。

 レスリングのオリンピックや世界選手権での強豪国と言えば、旧ソ連や東欧が多く、2012年ロンドン大会のメダル獲得国の割合は、旧ソ連(アジアに属する国を含む)・東欧で36選手と過半数を占めた。

 オリンピックからの除外を免れたレスリングは、発展途上国での大陸選手権やコーチクリニックの開催、SNSを駆使したメディア戦略、女性レフェリーの積極登用など、世界的な普及に力を入れた。10年が経ち、ひとまずの結果が出る頃だ。最近3大会のメダルの分布は下記の通り。

■オリンピックの地域別メダル獲得国数と選手数
地 域 2012年 2016年 2021年
国数 選手数 国数 選手数 国数 選手数
旧ソ連(中央アジアを含む)・東欧 11ヶ国 36選手 12ヶ国 35選手 13ヶ国 32選手
北西南欧 4ヶ国 5選手 6ヶ国 11選手 4ヶ国 8選手
パンアメリカン 5ヶ国 10選手 3ヶ国 7選手 2ヶ国 12選手
アジア(中央アジアを除く) 7ヶ国 18選手 5ヶ国 18選手 5ヶ国 18選手
アフリカ 1ヶ国 1選手 1ヶ国 1選手 2ヶ国 2選手
オセアニア 0ヶ国 0選手 0ヶ国 0選手 0ヶ国 0選手
合   計 28ヶ国 70選手 27ヶ国 72選手 26ヶ国 72選手
(注)2012年大会は、9年後にドーピングで2選手の失格が決まり、下位の選手を繰り上げていないので、2選手が減って「70選手」

 旧ソ連・東欧圏の優位は変わっていないが、リオデジャネイロ大会では女子でチュニジア、インド、東京大会では女子でナイジェリア、男子でサンマリノから初めてのメダル獲得選手が誕生。一方、南米のメダリストはいなくなり、オセアニアは「0」が続いている。パリで“新顔”の出現が望まれる。参加国、メダル獲得国とも東京大会を上回り、“世界のスポーツ”への道を歩まねばならない。

(注=「国」と表記していますが、正式には「NOC=国内オリンピック委員会」です)

▲2018年U23世界選手権優勝のモハメド・イブラヒム・エルサイェド(エジプト)。アフリカ躍進を引き起こせるか=UWWサイトより







2023年世界選手権/激戦の跡
JWF WRESTLERS DATABASE 日本レスリング協会 選手&大会データベース

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